犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□残雪に願う
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不意に扉が閉まる音がした。先生が帰ってきたのだろうと視線を向けると、どうやらさっきの女の先輩が退室しただけのよう。


「疲れたやんなぁ」


はは、と力なく笑いながら初めて私に話しかけてきた。
いきなりすぎて同様してしまう。なんとか頷けた。

あれ、もしかしてこれは二人きりじゃない?


まぁ二人きりだからと言って更に話が続くわけでもなければ、数学Aの問題が解けるようになるわけじゃない。

気を持ち直してまた問題を睨み付ける。
私のこの熱視線で問題なんかとけてしまえばいいのに。なんて、面白くも無いギャグ。
溶けてしまうのは外の雪ばかりだ。


あーあ。なんだかもう一生この問題に答えられない予感がしてきた。
私いつも勉強してるのに、なんでなんだ。

はぁと息を吐き出して、戯れに勉強を回してみる。


すぐ正面にいる彼みたいにくるりと回ったら今日はやめにしよう。もう帰ろう。
回らなければまだ頑張ろう。一個の問題だけとばせばいい。
そう思って。


人差し指と親指を使ってペンを弾く。二本の指の力を受けたシャーペンはくるりと回るどころか、カシャーンと大き過ぎる音を出して吹っ飛んだ。
やべ、なんてこったい。


「ったくそ」


震えた声が教室に響く。私の声ではない。
まぁ気にするほどではない。確かに今のは爆笑しちゃうほど下手くそだ。

シャープペンシルを拾いに行こうと立ち上がればまた目が合ってしまった。
どれだけ人の目見てるんだこのヤロウ。セクシュアルハラスメントだ。


何か言いたげな顔をしている彼には話しかけず、ペンを持って席に着いた。
けっ、悪かったな。どうせさっきのは初めての試みでしたよ。チャレンジ一年生でしたよ。けっ。


私は彼の呟きなど気にもせずに席に戻り、ぺらりと教科書をめくる。
今日やったばかりのところだからわかるかなと思いながら、ノートに練習問題の答えを書き始めた。おお、わかるわかる。


また再び静かに自習室で四問目を解き終えようとした時、カシャリ音が鳴った。
なんだと思えども変わらずノートにかじりついたままでいると、またカシャリと聞こえるのだ。いったい何の音。

ちらりと目だけを動かす。


今教室には二人しかいないのだから音の出所は必ずあっちだ。
私がカシャリカシャリ呟いているなら話は別だけど。そんなわけ無い。


……あ、またやってる。
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