犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?
□コーヒーゼリー
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艶やかな黒い髪。すっきりとした細い目がとても印象的。
整った顔付きをしているが、どこかの国にいた昔のお姫様よろしく全く笑わない。
それが俺の最愛で最高のガールフレンド。
ぶっきらぼうで仏頂面で素っ気なくて。でも、俺はそんな彼女が大好きだ。大好きだけれども。
せめて少しでもいいから、俺は彼女に笑って欲しかった。
ただ、彼女を満たしたいだけだった。
そして今日、数ヶ月ぶりのデートが始まる。
「おはよう春海」
春海の玄関チャイムを鳴らして、彼女が出てくるのを待つ。今日は事前に電話をしているから、すぐに出てきてくれる。
ガラガラと横に開くドアの向こうから、彼女が顔を出す。
「おはよう」
「今日も元気そうだね」
ちらりと視線だけ動かして彼女は俺を一瞥した。いつもの事。気にしない。
春海の顔を至近距離で正面から見れる事なんて、めったに無い事だ。
だから別に、お、おおお落ち込んでなんかいないんだぞ。
俺はヒーローだしアーサーとは違うから、泣いたりなんかもしないし全部へ、ヘイキだ。
デートに迎えに来た俺を、春海は玄関まで出迎えてくれる。
いつもの事だけれど、とても幸せだと俺は思う。片足にサンダルを穿いて、前屈みになり俺を迎える姿がなんといっても可愛らしいから。
……だ、誰だよアーサーみたいって言った奴。
「今日はどこに行こうか?」
気に入っているスニーカーを脱ぎながら、廊下を歩く春海の背中に聞いてみる。
案の定、どこでもいいと小さな声で返ってきた。これもいつもの事なので、OKと返事しておく。
春海は少し先にある彼女の部屋に入って、俺はそれより手前のキッチンへと足を向けた。
勝手をよく知る春海のキッチンで、コーヒーを煎れる準備を始める。
今日は少し濃いめにしておこうか。心なしか春海が眠たそうな顔をしていたから。
どうせ昨日は夜遅くまで本でも読んでいたのだろう。そんなのよりゲームの方がずっと面白いと思うんだぞ。
コーヒーミルで豆をゴロゴロと砕いていきながら、俺は今日のデートコースに思いを馳せる。
今日こそ春海がハッピーになって笑顔を作れるようなデートに連れて行こう。
今日は天気が良いから、外へと連れ出してみよう。
この前春海と一緒に見たテレビで、美味しそうなパンケーキを出す店が出ていた。あそこが良い。
それからそれから星なんかも見に行こうか。この前春海が読んでいた本の表紙に銀河が描かれていたから。
ポタリと、一滴目のコーヒーが落ちる。