犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□コーヒーゼリー
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あつあつの湯気を浮かべるコーヒー二つ。それを両手で一つずつ持って、春海の待つリビングに向かう。

リビングのドアを慎重に肘で開ける。傾いた手を慌てて直し、中へと踏み込んだ。
ソファーで寛いでいる春海を見つけ、彼女にカップを手渡す。
そんな彼女の隣には、毛布と積み重なった本が置いてある。多分そういう事だろう。


濃いめに入れたコーヒーを飲む前に、彼女の反応を見る。春海がすぐに二口目を口に入れたなら、気に入った証。
春海に穴でも開けるつもりでじっと見ていれば、無事彼女は二口目を啜る。
そこでやっと安心して、俺もコーヒーを飲み始めた。ちょっと濃いのコーヒーは目が覚める。


「今日はどこへ行きたい?」

「特に無い」


彼女がカップから口を離して答えた。冷たい受け答えだが、いつもの事なので気にならない。

春海がそう言うなら、どこでも連れて行って良いだろうか。だったらさっき考えた通りに行動しよう。


その旨を話してみれば、彼女は黙ったまま頷いた。

喜んでくれたらとても嬉しい。寧ろ、ヒーローの俺がヒロインの春海を喜ばせて見せるんだぞ!

いつもと変わらない熱意に燃える俺に、春海は対して興味も示さない。コーヒーを飲み干したのか立ち上がった。


「準備してくる」

「わかった!」


予想通りコーヒーを飲み干したらしい春海は、リビングから出ていった。
準備してくると言うんだから出掛ける用意をするんだろう。

さっき彼女が座っていたソファーに腰を下ろして、どういう順番で遊ぶか考えを巡らせた。
それだけで心が踊る。顔がにやけているのが自分でもわかった。


今日は車で来てないし、歩いたり地下鉄に乗ったりしてデートへ行こう。

もし問題があれば、菊の家に行って車を借りてくればいい。
一応連絡しておけば彼なら二つ返事でオーケーしてくれるだろう。


「まずはランチだな」


戻ってくる春海の姿を想像し、胸を高鳴らせる。
可愛い格好をしているのは見たことないけれど、部屋着から着替えた春海は部屋着の時より可愛い。


たまには可愛いスカートなんかも着て欲しい。けど前にそれを言った時、丸一日無視されたからもう二度と言わない。


「お待たせ」

「よし、じゃあ行こうか!」


ドアを開けた春海の手を引いて、俺は玄関へと足を早めた。
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