犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?
□あいらいくゆー!
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シュークリームを口に運ぶ手が止まる。四人の視線はある男に集まって動かない。
誰も反応を返さないのにやきもきしたのか、その男はまた同じ言葉を繰り返した。
「春海、ちょっと良いか?」
「アーサー、なしたの」
シュークリームを口いっぱいに頬張りながら、呼ばれた春海は眉を顰める。
他の三人も不可解なのかアーサーをじっと見ていた。若干、嫌そうな顔をしていた者も居るが。
アーサーがこうやって春海に話しかけるのは珍しい事だった。
呼ばれた当人もまったく覚えがないのか首を傾げたまま。しかしちょっといいかと問われたからには答えなければいけないので、彼女はこくりと一つ頷いた。
「来てくれ」
「はいはーい」
アントーニョからの鋭い視線も気にしないで、彼は春海を連れて行く。
彼女が居なくなってすぐ、三人は顔を見合わせた。その表情は疑問に満ちている。
春海がみたら間抜けだと大笑いするに違いない。
「今の、なに?」
「知るかよ」
たった数秒の出来事にまず口を開いたのはフランシス。
しかし彼の問いに答えたのはまともな答えを返さない、口の端にクリームをつけたギルベルトだった。
難しい顔をしたアントーニョが、春海が出て行った扉を見つめている。
「あのエロ眉毛、春海に変なことしてないやろか」
彼が言いたい事とは。誰にでも予測できる事である。
今彼女を連れて行ったアーサーと言う男の性格を、彼らはよく知っていた。
いつもエロ本を持ち歩いていると噂の彼が、春海を呼び出した理由。
もしも彼らの思う通りに、アーサーから春海に何かする事になったら。
告白とか、セクハラとか。やりかねない。
嫌そうな顔をしているアントーニョは勿論、フランシスもギルベルトも面白くない。
春海と仲良しなのは自分たち。それが崩れる、それもパッと出のアーサーにそれをされるのが気に入らないのだ。
「べ……別に良いんじゃない?」
確かにフランシスが言うとおり、特に彼らが彼女と付き合っていると言うことはない。四人はいつも連んでいる仲の良い集まりという以外の関係はまったくない。
無いはずだが、やはり。
「なんかおもんないわぁ」
アントーニョの言葉に思わず二人も頷いた。三人がアーサーを嫌っているからか、それともどうだかはわからない。
けれど一度そう思ってしまったら止まらないのだ。
追い掛けようぜと提案したのはギルベルト。
「春海が心配だもんねぇ」
フランシスの言葉を言い訳にしながら、食べかけのシュークリームを持った三人は立ち上がる。
その後ろ姿は姫を助けに行く王子たちの様だったと、菊が言ったような言わなかったような。