助団長編

□きっと、それが普通
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首根っこをがっしりとつかまれて、綾乃は自分の身の危険に気付く。

椿の手によってがっしりとつかまれた首根っこ。

それが意味するのは、綾乃の、負け。
綾乃はそれを理解すると同時に顔を青くする。


無理やり逃げようとして、金髪が、笑うようにふわりとゆれた。


「捕まえましたよ、観念して下さい。今日こそその金髪黒く染めてあげます!」

「これは地毛だって何回言ったらわかるんだよ!染色こそ校則違反!」

「校則では黒が基本とありますから。それに僕が言っているのは髪だけではありません」

「しつこいな!服装は自由だろ!」

綾乃は首根っこをつかまれながらも必死に抜け出すための隙を見つけ出そうとして考える。

安形は見当たらないし、この手をどうにかして離してもらうのも無理らしい。

誰にどれだけなんと言われても、この髪と服装を帰るつもりは綾乃には毛頭無い。
この髪にはプライドだって掛けてるんだから。


そこで、綾乃は、昨日アニメで見たようなあの手は使えないのかと思いつく。

そして、椿の目の前で、綾乃は涙を浮かべ始めた。


「な、なんですかっ!?」

「う、ひっく、つばき、ひどいっ、あたし、うっ、うぇ」

「な、何故泣く!?」


先日のアニメで見たように、押してやるんではなく、引いてやると言う手段をとった綾乃は、ぽろぽろと涙を流す。

まさに女優ですら裸足で抜け出してしまうような自然な演技。

それでも開盟学園演劇部の元部長。
将来もその道に進むことを考えている綾乃の演技は、体温、心拍数から体全てを自分の思いがままに演じることができる。


そんな天才級の演技にだまされない人間など皆無で、椿も例外にもれず、


「な、何を泣いてるんですか!?」

「だっ、て、うぅ」

「頼みますから泣かないでください!乱暴したことは謝ります!」



だ ま さ れ た。



顔を真っ赤にさせて涙目になり椿を見上げる綾乃は、椿の手が緩み、今や綾乃を泣かせてしまったと慌てて機嫌をとろうと四苦八苦し始めている事に気付く。


本格的に椿が慌て始め、流石にやり過ぎたかと綾乃がどこら辺で切りあげようかと考える。

周りからは椿に何綾乃さんを泣かしてるんだよという目線が突き刺さる。

椿はどんどんあせり、顔が引きつってきている。


「そろそろやめてやれ。綾乃」

「お、惣司郎。しょうがないなぁ」

「え、な、ど、どういうことですか!?」

安形が綾乃の肩を叩き、いじめてやるなと言えば、綾乃の涙は嘘のようにぴたりと止まる。実際嘘だったわけだが。


それをみた椿が信じられないと言う顔で目を見開く。

それもそのはず、綾乃の今までの涙はなんだったのかまったく涙は出て無い上に今は満面の笑みである。

今までのが演技とは気付いていない椿は混乱していく。


「…しっかりしろ、椿」

「は、な、ど、どういう!」


椿が綾乃にしてやられたことに気が付くには、たっぷり3分はあった。

さらに今日も上手く逃げられたことに気付くにも、もう少し時間が必要だった。






日常、通常。これが普通。
     (くくく、あー、愉快愉快)




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