助団長編
□副会長の憂鬱
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チェストというまったく意味のつかない間延びした雄叫びと共に。綾乃は力いっぱい椿に突撃した。
頭から体ごと。どすりと重たい音がする。
「ぐふっ!」
「いたっ」
綾乃はぶつかった衝撃で痛む頭をさすりながら、むせる椿を指差した。さも、お前が避けないから悪いのだと言わんばかりに。
それが正しいかはわからないが、お互いに理由があるのだけ確かである。
手を出した分、綾乃の方些か分が悪いが。
「副会長、いつもの威勢はどうしたよ」
「あ、なたが、いきなり」
突然すぎた攻撃に混乱する椿。心臓のあたりをどんと押されたからか、ばくばくとうるさく騒ぐ。
椿が動揺している事に満足したのか、綾乃は彼を鼻で笑った。最早不良顔負けである。
そんな殺伐としてるような穏やか仲良しそうな、よくわからない二人を、和やかな目で見守るのが生徒会の普段。
「貴方は何を考えているのですか」
いつまでも顔をしかめている椿。しどろもどろなままの彼に、綾乃はやりすぎたかと眉を顰めた。
そう言えばそういう衝撃って心臓にがっつり当たったら良くないんだっけ。
あやふやな記憶で今更すぎることも思い出し、彼女は事を重大に受け止める。
しかしココだけの話。本当の所は椿自身の気持ちの問題なので、決して彼の体にダメージがあった訳じゃない。
勿論、綾乃がそんな事に気付く筈がないが。
もともと女子と連み男子とは話す機会がない綾乃には、彼がどもる理由がわからないのである。
まぁ。最近の男子と椿に共通点が多いか少ないかになると断然に少ないのだから、例え話す機会があっても椿に活かすことは出来ないだろう。
ちなみに、綾乃の幼なじみ安形惣次郎は彼女の中で男子に含まれていない。
「椿君、お顔が真っ赤ですわ」
「なにっ!?」
ふふふと笑って言った生徒会会計の丹生。その隣に居た浅雛も頷いた。
指摘されてしまった椿はあわあわと手を頬や額に当てるが、自分でもわかるほどに熱を持っている。
その事にまた慌ててしまった椿は、顔を左右に振り払うように動かした。実際、それで赤みがとれるはずがない。
「なに、副会長風邪ですか」
「う、うるさい! 僕に構うな!」
椿の顔は未だ赤い。
事を重大に受け止めたらしい綾乃は、平静を装いながらも慌てていた。
風邪なら熱が出てるはずだ。もし風邪なら自分の所為ではない。
そう考えた綾乃はぺしりと勢いを付け椿の額をさわる。
熱があれば熱いはず。そう期待を込めていたが、彼女の手は上手く体温を知らせなかった。
そんな綾乃は冷え性である。
「熱を計る時は、額同士を当てるとすぐわかるらしいよ」
やけににやにやした秦葉が助け舟を出す。
……もちろん、その貴公子の笑顔の裏には違う意図が隠されているのだが。
気付かないところが、綾乃と椿である。
「ほら、早く早く!」
「え、あ、わかった!」
綾乃は、言われるがままに椿の両頬を勢いよく掴んだ。