助団長編

□それは自分で仕掛けた罠
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「……えと」


 静か過ぎる生徒会室。時折カーテンが揺れて落ち着く雰囲気を醸し出していた。
 風が外の木の葉を揺らす音に重なるように、椿が思わず声を出す。


 返事は返ってこない。椿が独りきりで居るわけではない。
 確かに二人で生徒会室に滞在しているのだ。


 いつも居るはずの生徒会メンバーは、都合が良すぎるほどに用事があって。
 浅雛は自身の気に入っているぬいぐるみショップへ。丹生は父親が風邪をひいただとか。秦葉はデート。
 安形は校内のどこかにいるらしい。どこにいるかは、誰も知らない。


 そんな中でたった一人、椿だけが生徒会に残っている。
 椿は仕事をしていたのだ。帰っても誰も何も言うはず無いのに、彼は黙々と勤労に励んでいた。


 ただ、先に言ったとおり独りきりではない。それが生徒会メンバーではないだけであって。

 安形が座る豪華なイスに、綾乃が座っているのである。
 椿が来たときからそこに居座っており、椿にどけろと言われても頑なに移動しない。


 結局は椿がお手上げ状態になり、綾乃は悠々とイスで寛いでいた。

 しかしお互いに喋ろうとしないため、生徒会室には綾乃のイヤホンからもれるかすかな音だけ。


 なにも話さない、授業をしてるわけでもないのに静かな生徒会室。

 困った。椿は非常に困っていた。
 彼の目の前にあった書類は全て目を通されていて、椿が処理できるものとできない物に分けてあった。


 つまり彼は、もう帰ることも出来る。しかし、綾乃を置いていく訳にはいかない。
 何故か頑として帰ろうとしない綾乃に、椿は呆れたため息を吐いた。


「坂城先輩」


 やはり返事はこない。背もたれがこちらに向いていて、椿から彼女の顔を見ることは出来なかった。
 あえて無視しているのか、それともイヤホンで聞こえないのか。

 音漏れがしている位なのだから、きっと聞こえなかったに違いない。


「坂城先輩」


 少し大きな声で読んでみる。やはり返事は無い。

 そもそもなぜ彼女がここにいるのか疑問に思った椿は、ついに立ち上がり綾乃に近付いた。


 綾乃が気付いて振り向く様子は無い。
一層不審に思った椿は綾乃の顔が見える位置まで移動する。


「坂城先輩……?」


 返事は、来るはずがない。
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