助団長編

□意地悪というより悪趣味
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くるりとキャスター付きのイスを回す。生徒会長である安形の定位置が、最近綾乃の物になりつつあった。

よくある放課後の生徒会室。


「綾乃さんは会長と付き合っているのか?」


シャーペンを動かしていたはずの浅雛が、唐突にイスに座る彼女に声を掛けた。
イスが回転を止める。
彼女たちの方を見た綾乃の顔は、信じられないと驚愕を表していた。


「惣次郎が恋人とか考えられない」

「どうしてですの?」

「自尊心がずたずたにされるから」


膨れっ面に変わった綾乃はまたイスをぐるぐる回し始める。
席の持ち主はいない。丹生曰わく、今日は他校に訪問に行っているとの事だった。


「じゃあ綾乃ちゃん俺はどう?」

「ハッ」


即座に鼻で笑って返し、綾乃はイスを回し続ける。
もうすっかりそれに見慣れたのか、転ぶかもしれない危うい行為を咎める人はいない。

彼を除いては。


「坂城先輩、イスを回すのは危険ですので止めて下さい」

「ハッハー」


よくわからない答えを返し、綾乃は椿の言葉を無視する。これも、いつも通り過ぎる風景だった。
実は、これが彼女の最近の趣味。


「副会長、ひまー」

「貴女は何故ここに居るんですか。下校すれば良いでしょう」


副会長、椿佐介をからかうこと。

悪趣味だとは、誰も言わない。元々よくからかわれる人物である。


「安形遅いね」

「綾乃ちゃん俺と帰る?」


秦葉とは中学校からのなじみである綾乃は、こういう彼の誘いもするりとかわす。
彼もかわされる事を知りながら、軽口を投げかけていた。

綾乃が安形と帰りたがるのは、彼らの家が極端に近いからである。


「今日会長は他校に行ってらっしゃいますから。遅くなります」


綾乃は椿から今日二回目の台詞を聞いた。
わかってると返して、彼女はやっとイスを止める。その表情は若干青い。

目線は覚束なく、綾乃の意志に反して動いている様だった。


「早く帰りたいなー」


事は綾乃が安形と一緒に帰るために、生徒会室でくつろいでいたことから始まった。

暇な綾乃がからかえば、椿は必ずそれに言い返す。結果綾乃がそれで暇つぶしをしているのだ。


今日の椿は忙しいらしく、仕事に没頭している。他の三人は徐々に帰る用意をしていた。
椿は安形を待つつもりでいるらしい。

紙の上で動く椿の手を、綾乃がじっと見ている。椿の手は止まらない。


「先に帰るぞ椿君」

「ああ」


浅雛を皮切りに、あっという間に人が居なくなる。
今度クッキー焼いてくるよと言った秦葉を最後に、生徒会室には椿と綾乃の二人が残ってしまった。
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