助団長編
□恐怖に煽られ
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生徒会室の扉がノックも無しに開かれる。
ここ最近のこの不作法はやる人間が決まっているから、最早誰も驚かない。
ねぇねぇ、安形まだ? 今日もまた同じ様に言った。
面倒臭そうにプリントを眺めていた安形が顔を上げる。ずかずかと入ってきた綾乃に嫌な顔一つせずに、また来たかという言葉で迎えた。
「早く帰りたい」
「今日もまだ無理だな」
安形の言葉に顔をしかめた綾乃が、生徒会室をぐるぐると回り始める。
見かねた浅雛がイスを出そうとしたが、椿が止めた。
いつものことだが、彼は眉根を寄せて綾乃を見る。
「早く帰りたいなら帰ればいいでしょう」
「だまらっしゃいカタブツ」
けっ。反抗心を丸出しにした綾乃は、浅雛が用意しかけたイスを自分で運ぶ。
安形が座る隣にそれを置いて、よいしょと座り込んだ。
椿がそんな綾乃にイライラしていると感じたのか、安形が椿の名前を呼ぶ。
まるでそれが義務かの様に、素早く返事をする椿。
犬だ。誰にも、特に椿に聞こえない様に綾乃はつぶやいた。
「昨日は悪かったな、お楽しみ中に」
「あ……あれは違うと再三申したでしょう!」
ピリピリした空気を変えようとした安形なりの話題だった。どうせすぐいつも通りになるだろう。
しかし安形の考えも虚しく椿の機嫌は急降下していく。
彼のシャーペンを持つ手にも力が籠もる。三白眼がじろりと綾乃を見た。
「一人で帰れない理由でもあるんですか」
疑問を投げかけるにしては愛想の無い言い方である。敵意の籠もったそれに、当然綾乃も敵意で返す。
意地の張り合い。子供の喧嘩。
相変わらずのそれにさすがの安形も苦笑いが隠せない。
なんとかしろと言う部屋の空気と、あからさまに表情を崩した綾乃への嫌がらせの為、彼もまた口を挟む。
「それは俺も聞きてーな」
「……笑わない?」
「なにか深刻な問題なのか?」
意味深に視線を泳がせた綾乃を追い詰める様に、浅雛が首を傾げた。
丹生も秦葉も、興味深いと目を向けている。
眉を顰め難しい顔をした綾乃だったが、やがて少し開けた口から小さな声を出す。
最近と掠れた彼女の声に、丹生が同じ言葉を繰り返して続きを促した。
「ストーキングされてるみたいでして」
「はぁ?」
一番に声を上げたのは他でもない一番近くに居た椿だった。