アンチヒロイン!

□01 黄色の視界
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幼い頃は『魔法』というものに憧れていた。

正しく言えば、憧れている。現在進行形で。

小学校低学年ならまだしも、高校生になった今ではあまり自慢できるものではない。

むしろ恥じるべき事。

でも、普通の人間なら非日常性には少なからず惹かれてしまうものだと思う。

女の子がお姫さまに憧れるように。

男の子が正義のヒーローになりたがるように。



とにかく、『魔法』だとか『妖精』LOVEのファンタジー少女な私は当たり前のように

かの名作『ハリーポッター』にハマった。

一人一人の背景、世界観、ストーリー。どれをとっても私好みだった。

まだ現役の学生でありバイトもしていない私には雀の涙ぐらいの小遣いしかなかったけど、

ひっしにかき集めたりして、何とか六巻まで揃える事ができた。

本屋で立ち読みをして七巻も読んだけど、熱狂的ファンの一人としてはやはり手元に全巻そろえたい。

映画の方はビデオやDVD化されたのを近くのレンタルショップで借りて、

今まで公開されたものは一通り見た。

原作と映画では微妙に違うところもあり、その分楽しめた。

そして日に日に魔法界への憧れは強くなっていった。


そんなこんなでついに今日七巻を買えるぐらいのお金が貯まり、学校の終わった今本屋に向かっている。

達成感とか高揚感とかいろんなものを胸にレジへ向かう。

カバーを着せられ、袋に入れられた本を店員に受け取る。

ありがとうございました、という店員のビジネススマイルがいつもより5割り増しで輝いて見える。

心境的には「七巻、ゲットだぜ!」と黄色い電気ねずみを肩に決めポーズを決めたいところ。



ルンルン気分で鼻歌を歌いながら、考えるのはやっぱりハリポタ。

一瞬でも自分を魔法界へ連れて行ってくれるこの本をスコーンと紅茶を片手に読もうとか、

BGMに映画のサウンドトラックでも流そうかなと思案していたとき。



「危ない!」




誰かの声。

そのときになってやっと自分が横断歩道を渡っていたことに気づく。

そして、背後から迫ってくるエンジンの音。

足が動かない。



全神経を総動員して首を捻れば、

目にうつる重機と

耳に聞こえる誰かの声。

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