silversoul

□秋の葉
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「あ、土方さん。頼んだ書類目通していただけました?」

「ん、ああ、…まだあったか」

「いえ、あとは局長にやらすんで。土方さんは明日のために休んどいてくださいよ」

「悪いな」

「……土方さん」

「あ?」

「何か、ありました?」

「…別に」


秋は、来ない。



外は明るく晴れていて、陽射しは暖かかったが、やはり風は冷たかった。
そういえば明日からは雨が続くんだったか。天気予報はあまりあてにしないが、最近は珍しく当たっているような気がする。明日は雨だ。


親子が手を繋いで歩いている。男女が身を寄せ合っている。店の戸は閉め切られている。

できれば今年も美しい紅葉を見たかったものだ、と会話する老夫婦とすれ違った。
なぜだかか振り返って、数秒、その二人の背中を見つめながら、なぜだかやり切れない気持ちになった。

暖かい、優しく赤い、あの葉を、
あの人が見つめていた。
それが落ちるのを見ていつも、悲しい顔をした。

彼女とそれはよく似ている。

毎年赤く色づいた紅葉を見る度に思った。
すぐに落ちてしまうから、あまり言いたくはないが、桜に例えてしまうのよりはいいだろうか。

儚く、美しい。

彼女は春だ。暖かく漂って、気品があり、何をも包み込んでしまう。
しかし秋でもある。
記憶が冷めきってしまわないよう、時折思い出すと、春のように暖かい彼女はまさに、


『十四郎さん、』


紅葉そのものだ。


「なんであんな昔の話、」


ああ、

できることなら、今年もあなたに、笑って舞って欲しかったのに。


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