「見ちゃならねぇもん見ちまったな」


見られたくないところを見られてしまった。
傷だらけで、肌も髪も服もぼろぼろな、私。


「…なんで」

「通行の邪魔だぞ お前のせいで事故でも起こしたらどーすんだ」


こんな人一人いない真夜中の道路の真ん中
ヘルメットもつけないで
明かりすらない中で
私を見つけたあなたは
いつもと変わらない目で
私を見下ろす。


「たくよ、いつもより下品なカッコしてんな」


「さすがに轢かれるぞ」

「…あの、銀さん」

「あーもう、なんなら今轢いてやろうか?」

「…」

「何黙りこくって 本気にすんなよマゾさっちゃんよ」

「…銀さん」

「さっちゃんのお家はどこ」

「…」

「…」


帰らなきゃ
私もはやく、家に
帰らなきゃ
わたしの、家


「…はーも…しゃーねーな」


あなたはその頭を掻いて

「ほら、優しい優しい銀さんが今日のさっちゃんのお家まで乗せてってやるから」


私は夢でも見てるのかしら
だってあなたが私の腕をひいて
こんな近くで
そんな顔をして私を見てる


「銀さん」

「あー?」

「ありがとうございます」


夜風が私とあなたにあたる
真夜中の道路に、原付が通る。

あなたの匂いがして 私はひどく安心する
そしてあなたの背中の温度が
私とあなたの境界を取り払って
このまま埋もれてしまう


「お礼に今度、また朝ご飯作りますね」

「…納豆だけじゃなくていちご牛乳も持ってきてね」

「はい」

「はー決まんねーなあ俺も」

「好きです銀さん」

「ほーいほい」


何があっても
私はあなたについていく
なんて
どこにでもある、ありきたりな言葉を
あなたに言えるわけもない




.


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