「おお、リク、おはよう」
「あ、おはようございますニノさん」
「今日も良い天気だな」
「そうですね」
そよそよと、頬を撫でる風が気持ちいい。
こんなことは、ここ最近毎日毎日感じているけれど、それにしても今日は、心地好い。
「そうだリク、今日お前に見せたいものがあるんだ。ついてきてくれ」
そう言って、彼女は背を向けて歩きだした。
それに続いて、僕も歩きだす。
僕は、いつもこんな感じだ。
気持ちの良い風と、彼女と川の匂いとに包まれて、僕はそれに身を任せる。
たまに自分からそれを壊したりもして、壊されたりもするのだけれど。
「これだ」
しばらく川に沿って歩いて、彼女が指差したそれは
「花、ですか」
「ああ、とっても綺麗で、他の花よりも目立って見えてな」
「確かに綺麗ですね」
「なんだか何かに似ているんだ、何かはわからないんだがな」
「…」
うすい黄色の、小さな小さな、気をつけて歩かないと見失ってしまいそうな花。
僕も彼女がこの花を指差さなければ、気づくことはなかっただろう。
その花を見る彼女の目は、とても素敵にみえて、安心しているようにすら見えた。
「ニノさんの、故郷に似てますね」
「…そうか?…そうか、そうだな…」
そうして彼女は柔らかく笑った。
儚く、広がる草むらの中にぽつりといるこの花。そしてそれを嬉しそうに見る彼女。
すべてが愛しく、すべてが美しい。
「さあニノさん、朝礼始まりますよ」
「ああ、そうだった」
するりと立ち上がって、さっきとは逆の方へ歩きだす。
風はさっきよりも、少し強く吹いている。
僕はまたその涼しさに目をつむる。
僕はこの心地よさが、どうしようもなく愛おしい。
,