真夏の夜は独特だ
張り付くようにべたべたとした空気と
生温い風
草むらではたくさんの虫たちが響き合っている。
こんな時間は、好きでも嫌いでもないけれど。

私の部屋には縁側があって、それがなかなか、四季を素敵に彩る。
そこに一匹の蛇がだらしなく腰をかけている。
こんな風景をみるのは、初めてではないけれど。


「乱菊」

「なによ」

「こっち」

そう言って振り返り、私に軽く手招きをした。
そんな奴は軽装で、着方もだらしない。
まあこれから眠るのだから、私もきちりとは着ないけれど。


「…なに」

「ああ、隠れなはった」

「は?」

「お月さん」


ふと空を見ると、真っ暗な空に、明るい雲がぽつり。
どうやらその雲は、月を隠したようだった。

そして私は隣に腰をおろす。
夜の匂いがした。

「…乱ちゃん」


静かに触れた唇と、隙間から見える鋭い目。
暗闇の中でもわかってしまう、私達は。


「秘密やね」

「…なにがよ」

「あ、出てきた」


さあ、と顔をだした明るい月。
「ほな、帰りましょか」

「…」

「ばいばい乱ちゃん」

立ち上がって、扉に消えた。
私はまた一人になった。
明日も仕事だ、私も早く寝てしまおう。


布団をかぶり、静かに閉じた目に映ったのは、
月もしらない、私達。




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