桜の巻
□愛、再確認
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最近、なんだか気まずい。
それはきっと私のせい。
だけど、ある意味で言えば左之助さんのせいでもある。
「今日はな、職場にお偉いさんが来たんだ。それでな…」
夕ご飯を食べながら会話をする。
しかし、言葉は右から入って左から抜けて行ってしまう。
「…………おい。千鶴。聞いてるのか?」
少し鋭い声音で声をかけられて、私はハッとなった。
「あ……す……すいません…」
「……まあ別にいいけどよ…。……でも、最近お前おかしいぞ?何かあったのか?」
疑問に眉根を寄せる左之助さんに私の心臓がドクリと鳴る。
「べ…別に何もありませんよ…」
笑顔でやり過ごそうとするが、彼の訝しげな表情は変わらない。
「……ほんとうか…?」
念を押されて、私はたじろぐ。
嘘をつくのはどうも苦手だ。
「…は……い……」
私は俯いた。
「そうか…。ならいいんだけどよ」
左之助さんの追及はなんとか止み、私は息苦しさを感じながら、食事を続けた。
――私は見てしまったのだ――
「今日もありがとうございます」
「いや。礼を言うのはこっちの方だろ?色々と世話になるな。」
「いえ。原田さんの為ならばどんな苦労も厭いません」
「大げさだろ。」
玄関先で左之助さんと、綺麗な女の人がお互い楽しそうに笑いながら、話をしているところを。
それも一度きりではない。
二人で歩きながら家の前まで来るところも目にしたことがあるし、ここのところ二人をよく目にするようになった。
それも、ある時間帯しか見れないはずなのに、運悪く、二人で歩いているところを目撃してしまうのだ。
それがまるで見せつけられているかのようで、なお辛い。
二人の姿を見るたびに、心がズキズキと痛む。
そして、不安が募る。
左之助さんはあの女の人が好きなのだろうか。
私に飽きてしまったのだろうか。
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