桜の巻

□Priceless
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「ねえねえ、千鶴ちゃんは、土方先生にどんなクリスマスプレゼントを贈るの?」

今日は家にお千ちゃんが遊びに来ていた。

「…私は土方先生に、マフラーを贈ろうと思っているんだけど……」

「もしかして手作り!?」

期待いっぱいの目で見つめられ、私は答えに詰まった。


「……うん…」

「きゃー!すごい!」

お千ちゃんは手を合わせて目を輝かせる。


土方先生にどんなプレゼントをあげようかと考えたが、彼に適当なものをあげるわけにはいかず、かといってちゃんとしたものを買うお金があるわけでもなく…
悩んだ末に出た結論は、手造りの物をプレゼントしようということ。
しかし…

「……やっぱりちゃんと買ったものの方が良いかな…?」

編み物なんて、滅多にしないから、ちゃんと仕上がるか分からない。
酷いものを土方さんにあげたくない。…それに、幻滅されるのは嫌だ。

すると、お千ちゃんは眉を吊り上げた。


「何言ってるの!?愛情の籠った手作りのものの方が嬉しいに決まってるじゃない!お金で買えるものなんて、たかが知れてるわ!」

叱咤されて、私はうっと縮こまった。

「そ、そうかなあ…」

そうは言っても、やはり不安なものは、不安なのだ。

そんな私に、お千ちゃんは優しく微笑みかけてくれる。


「そうに決まってるわ。うちの学校でも、土方先生に何をあげようかって悩んでる子たちもいたけれど、千鶴ちゃんのプレゼントに勝るものはないわ!」

お千ちゃんは自信満々に豪語する。


――一部に不安要素を含む発言をしつつ、千姫は満足げに帰っていった。――








いよいよクリスマス当日。

なんとか完成したマフラーを手に、緊張しつつ学校へ向かう。

学校につくと、千鶴は校門の前に群がる女子の集団を見つけた。

(島原女子高校の制服だわ…)

千姫と同じ制服を着た女子だった。

近づいていくと、会話が聞こえてくる。


「…土方先生まだかな…」

「早く来ないかなあ…」

「このプレゼント、きっと喜んでくれるわ」

「何言ってるのよ、私のプレゼントが一番喜んでくれるに決まっているじゃない」

「なんですって?私のに…」

「いいえ、私です!」

そこでは既に静かな戦いが始まっていた。

女子たちが手にしているものを見て、千鶴は肝をつぶした。

ブランド店の銘が入った小包や、



放課後。

帰り支度をする。
荷物の中にある袋――先生にあげる筈だったプレゼント――を見て、千鶴はため息をついた。

渡すはずだったプレゼントは、結局渡せずじまい。

でも、やっぱり、せっかく作ったのだから、先生に渡したい。


(直接渡して、先生に迷惑をかけたくないから、下駄箱にでも入れておこうかな…)

自分たちが恋人同士だということは周りには知られてはいけないことなのだ。

千鶴は思い立って、職員の下駄箱に向かった。




沢山の箱の羅列の中から、土方の文字を探し、見つける。

まわりをキョロキョロと見まわし、人がいないのを確認すると、千鶴は意を決して戸に手を掛け、一気に開けた。


下駄箱の中を見た瞬間、千鶴は固まった。


まるでバレンタインデーみたいだな…なんてのんきなことを千鶴は思った。


中には、流石にあふれるほど、とまでは行かないが、それでも沢山のプレゼントが入っていた。


この学校には千鶴以外に女子はいないため、このプレゼントは、島原女子高校の生徒からだということになる。


錚々たるプレゼントの品々。
それを見ると、自分がみじめになる。


「千鶴…?」

その声に、千鶴はハッとなった。


振り向けばそこには教師の原田の姿があった。

背筋が冷えた。

「…何してんだ…?」

その言葉に、千鶴は慌てて下駄箱の戸を閉めた。

「べ、別に、なんでもないです」

ぶんぶんと首を振る。

原田は少し訝しげに眉をひそめたが、そうかと、いつも通りの口調に戻って言った。


「ところで、その腕の中のものはなんだ…?」

痛いところをつかれ、千鶴はギクリと身じろいだ。


「こ…これは……」


どんな言い逃れをしようかと考えていると


「もしかして俺へのプレゼントか?」

原田の言葉に、千鶴はそうかと思った。


(原田先生に、これをあげてしまおうか…)


どうせもう、土方先生には渡せない。いや渡さない。

自分で持っていてもみじめさを思い出すだけだし、もし使ってもらえるなら、本望だ。


「そうです…!先生へのプレゼントです」

千鶴はプレゼントを差し出した。

言いだした本人である原田は驚いた顔をした。



「いや、別に冗談で言っただけなんだが…」

「迷惑じゃなかったら、貰ってください」

「迷惑な訳はねえけどよ…」

妙に歯切れの悪い物言いだった。

「…本当に…良いのか……?」

ちらと、下駄箱の方に視線を投げる。

先生はことの次第を全部わかっているのだろうことが、千鶴はわかった。

それなら、寧ろ話は早い。


「おい!千鶴…!」

千鶴は原田の胸にプレゼントを押しつけて、走り去った。


原田は、複雑な心境で袋を見つめ、頭をかいた。



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