恋ノ唄
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「黙れ。テメェは六幻のサビだ」
スラリと抜かれた刀(ムゲンっていうらしい)には鍔がなく、漆黒の刀だった。
なんとなく、自分のイノセンスである刀と似ている。
鍔があるところを除けば、ほとんど同じだ。
多少がっかりしながらも仕方なく春花も刀を抜いた。
「だからお互い様ですって。
何をそんなに怒ってるんですか。
―大体、これからカトル村に行ってもしかしたらアクマと戦うかもしれないってゆーのにこんなんで体力消費したくないんですけど」
とは言いつつ、春花も好戦的な性格らしかった。
かろうじて表情は崩さないものの、口元はかすかに上がっている。
春花が刀を抜いたのと同時にお互いが飛び出し、刀を交える度に、金属同士がぶつかるかん高い音が響く。
もともと感じてはいたが、春花もそれなりの実力を持っているらしい。
―なにせあの神田と対等に(神田も多少の手加減はしているだろうが)やり合っているのだから。
5分もしただろうか、二人の額に汗が浮いてきた頃、それを拭いながら、春花がめんどくさそうに呟いた。
「疲れたなー…。
ねー神田さん、そろそろ終わりましょーよー。
あたし疲れちゃいました。
わざと間違えたことは謝りますからほんと終わりにしましょ」
「お前がおとなしく六幻のサビになったらな」
「だからムリですってば。」
神田のセリフを聞いた春花は諦めたようにため息をついて、おもむろに銃を取り出すと―
「ごめんなさい、神田さん」
謝りながらもためらいなく引き金を引いた。
-ズガンッ
耳を塞ぎたくなるような轟音と共に、鉄の塊から鉛玉が飛び出す。
それは神田の持っている六幻の、本来なら鍔がある――神田の手がある場所から数センチ離れた位置に当たり、
-キンッ
高い音を出して、弾かれた神田の刀と共に地面に落ちた。
「はい、これでおしまい。
勝負は刀以外の武器を使ったあたしの反則負け。
―それでいい?」
「……ンなの認めるワケねぇだろ。
バカにしてんのか?」
「はぁ?
あたしがいつあんたをバカにしたのよ。
こんなところで体力消費するのがバカらしいとは言ったけど、久しぶりに楽しかったもの。
バカになんてしないよ」
「チッ……」
舌打ちをし、不服そうではあるが、春花の素直な物言いにそれとなく納得したようだった。
「(ずいぶんなごアイサツさね……)」
一人残されたラビはというと、苦笑を浮かべながら終始見ていた。
二人を止めようかと何度も思ったのだが、二人の戦いぶりを見るとそれは自殺に等しい行為である。
「ラビ、行こう。
カトル村まであと少しなんでしょ?
早く行って休もうよー。
あたし神田との手合わせで疲れたちゃったし汗かいたからお風呂入りたい」
「あー、うん。
……しっかし春花って意外とつえーんさね。
驚いたさ」
心底驚いたようなラビに、まぁね、と曖昧な相槌を打ち、神田に目をやる。
納得のいかない(当たり前だが)終わり方だったのでかなりいらついているようだ(さっきから舌打ちを何度もしているし、眉間のシワも幾分か深くなった)。
「あ、そういや春花って着替えとか持ってきてる?」
「ううん。
だって連れて来られたっきりだったから団服と来るときに着てた服しかないよ。
それに今日だけで終わらせると思ってたから何にも考えてなかった」
「えっとさ、任務は必ずしも一日で終わるとは限んねーんだよ。
そうさねー…今回は簡単だし、ユウもいるからそう時間はかかんねーけど、二日か三日はかかるな」
「…………げ。
あたし着替えないよ!?」
それまではのんびりとしていた春花の顔に、ラビのセリフを聞いた途端焦りの表情が浮かんだ。
「あ、でも宿に行く途中の店で買えば「あたしお金ないもん」……それは、コムイが必要経費でおとしてくれるさ」
『必要経費』という言い方があまり気に入らないが、まぁお金はないし着替えはないしで仕方ないので甘えることにした。
個人の服まて必要経費としていいのかはイマイチ不安だが、余計なことを言っても怖いのでそのことは考えないでおく。
そして、どんな服を買おうかそれだけを考えることにした。
……のが失敗だった。
この時は、宿のことも考えておくべきだったのである。
今更後悔しても遅いのだが。
(銃と刀―)
(その二つの重さが、)
(ひどく懐かしいように思えた)