アイユメ
□Q11
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「っは〜…終わった終わったー…」
やっと授業が終わり、軽く体を伸ばす。
さて、日直の仕事を早く終わらせなきゃ。
そう思いながらも、友達と話していたらいつの間にか教室にはあたしと友達と……なぜか黄瀬君の三人しかいない。
「あ、じゃああたしそろそろ帰るねー。
美夢、また明日ー」
「はーい、じゃあねー♪」
三人しかいないことが恥ずかしかったのか、その友達はそそくさと帰ってしまった。
「ほら、黄瀬君も行きなよ。
部活、遅れちゃうよ?」
「…………んー…でも、」
なかなか行こうとしない黄瀬君をニッコリと見送って。
「早く行きなさいってば。
笠松主将に怒られちゃうよ?」
笠松主将に怒られるのを想像したのか、黄瀬君は顔を青くした。
それでも黄瀬君はこっちに近付いてきて。
-ぎゅっ
「………………へ?」
何が起きるのかと思いきや、抱きしめられた。
「…ホント、心配なんスよ……。
もし、俺が離れたせいで美夢サンが傷つくようなことがあったら……」
「………いやあの、それよりもこの腕を……」
「………あ。
…でもごめん、もう少しこのままで……」
「あ、あたしの心臓が危ないんですけど?///」
もぞもぞと黄瀬君の腕の中で動いて顔を上げる。
心なしか、黄瀬君の顔も紅い気がして。
「…………俺もッス…///」
「…よし黄瀬君、離れようか。
この体制はヤバイ。
誰かに見られたらとてつもなくヤバイ。
早く部活行きなさい」
「………何かあったら、絶対俺のこと呼んでよ。
必ず守るからさ」
いや……ねぇ?
そんな真顔でストレートに言われちゃうと………
ものすっごい照れる。
「それじゃ…部活、行って来るッス」
「うん、いってらっしゃい。
頑張ってねー」
ひらひらと手を振って、黄瀬君を送り出した。
よし、日誌書いて窓の鍵かけなきゃ。
あ、黒板も消さなきゃいけないんだっけ。
……上のほう、届かないんだよなぁ。
悲しいぜこのやろう。
小さくため息をついて黒板消しを手にとる。
―その瞬間。
-ガシッ
「っきゃ……!!」
羽交い締めにされた。
結構力が強い。
「おっ、ホントに美夢ちゃんじゃーん♪」
「マジかわいー♪」
「ちっちぇー♪女の子ってカンジー♪」
くそ、『♪』ばっかでうざい。
なんかなにげにコイツら顔いいぞ。
いやでもやっぱムリ。
「離してください……っ…」
「んー、あんま抵抗しないでくれるー?」
「痛いの、ヤだよね」
「っん……ぃたっ…」
一気に押し倒されて、頭と背中を打つ。
誰か一人が少しは意識したのか床に倒れる前に、床とあたしの間に腕を滑り込ませてくれたけど。
「いやっ、やめてっ!!」
スルリと制服の中に入り込んでくる汗ばんだ手。
鳥肌がたった。
抵抗しようにも相手は三人。
一人には両手を押さえられてるし、もう一人には足。
最後の一人は馬乗り。
……………サイアクだ。
それでも、思いっきり叫ぶ。
「助けてーっ!!黄瀬君っ!!」
「……っせェなぁ…」
-パシンッ
「――ッ…」
なんの予備動作もなく殴られ、息を飲み込んだ。
頬がじんじんする。
手加減なしでひっぱたいたな、このボケ。
睨んでやっても、ソイツはニヤリと笑うだけ。
「ンな顔で睨まれても、なー。
オイ、口塞げ」
「………ちょっとマズくねぇ?
単にビビらせるだけだろ?」
少し戸惑うような声。
そっか、ビビらせろ、って言われてたワケね。
もう充分ビビったよ。
だから離せよ。
「あ?この状況で、これで終われるかよ」
「でもよ……。この子、泣いてるぜ?」
「いいって。どうせコイツだって周りのヤツらに言えやしねぇよ」
上から見下すように笑われ、色んな感情が入り混じった涙が溢れる。
……かろうじて声は漏らさないけど。
―心の中で黄瀬君を何度も呼んだ。
助けて、黄瀬君。
早く来て黄瀬君。
『必ず守るから』
まだ、信じてる。
絶対来てくれる、って。
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