恋ノ唄

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「っつーかなんでお前が俺の隣に座ってんだよ」


再度資料に目を通していると、座っているのに高い位置から聞こえた不機嫌そうな声。

頭を上げると。


「そんな顔しなくてもいいじゃない。
あたしが神田の正面にいたらイヤがるかなーって思って顔の見えない隣に座ってあげたんでしょ」


「………チッ…」



あ、また舌打ちした。

多少ムカつきながらも、ハイハイとそれを流して資料を読み直す。


あとは地形図にも目を通しておかないと。




―今回は少々危険な任務らしい。

ノアが現れる可能性もあるとコムイは言っていた。


しかし春花はノア達の顔など知らない。
神田とアレンは何人か見たことはあるみたいだけど。


「アレンってノアの顔見たことあるんだよね?

ノアって普通に人間の形してるって聞いたんだけど、それって本当なの?」





「あぁ…はい。

見た目は人間ですよ。
―中身も人間と言えば人間ですが、彼らは不死身ですから」


「そうなんだ……」



「………そういえば、春花ラビとの任務でノアに会って…ない、ですよね?」




ふいに、アレンの声のトーンが変わった。



考えるように、疑うように、何かを手探りで探すように。

微かな不安。


そんなものが伝わってきた気がした。


「………へ?

会ってないよ?」


てゆーかそもそも会ってたとしても顔知らないし。



そう言うと、アレンは不思議そうに首を傾げた。


――何か、あったのだろうか。


「…何か……、あったの…?」



「僕、この前の任務でノアと闘ったんですよ。


…その時、ノアの一人が、確かに春花の名前を言ってて……

よく分からないんですけど、僕はそれがなんとなく不安で。
でも春花がノアと接触してないならよかった」




「変なハナシね。

あたしノアに会ったことなんて――」


ないのに、と言おうとして、その言葉がノドに詰まった。



――会ったことが、ない―…?


「………っつぅ…あた、ま…痛い……」


割れるような痛みが頭に鋭く走った。
いっそのこと割れてしまったほうが楽なのではないか、というほどの痛み。


それと共に頭の中に流れてきたのは少しノイズがかかった音声と、古い映像。


女の子と、二人の男の子が映っている。


(―……あたし、と……誰…?)


楽しげに笑っているのに、どこか泣きそうな小さい頃の自分。

その向かいには、一つか二つくらい年が上に見える男の子が二人いて。



その二人は、笑いながら何か恐ろしいことを言っていたように思う。


『……、……――…。


…だってね、俺達は――なんだ。

春花とは違うんだよ』


『…――ット……でも、』



『―俺はいつか、春花を―すよ。

コイツと二人で、ね』



『………っ…』

『―お前は、俺が、―すんだ』


―誰?
なんであたしの名前を知っているの?
なんであたしとあなたは違うの?


「――…くっ…ぅ、ぁあああっ…!!
…うぅ………―っは、」


「―春花?大丈夫ですか!?春花!!」


アレンの声と、神田が頬を叩いた衝撃のおかげか、それはやっと消えた。



「……なに今の…


あたしの記憶なの……?」


「…?春花、何を見たんですか?」



「わからない……


あたしがまだ小さくて、どこかの……――そう、公園だったわ。

…あたしと、二人の男の子が向かいあってて…一人の男の子があたしと自分とは違うって言ったの。


―……その子、笑ってるのに、なんだかすごく怖いことを言ってた気がする……」


それが何かは覚えていない。

あるのは、確かな恐怖――


「………ごめん、もう大丈夫だから。


心配してくれてありがと、アレン。

―神田も、ありがとう」


心配してくれたアレンと、こっちの世界に引き戻してくれた神田。



二人にお礼をして、少し横になった。


今のはなんだったのだろう。
今まで思い出したことはないのに、確かに記憶はあって。



思い出そうとしても、もう出てこない。


――何か、ノアに関係している―?



ノアとの関連性を考えようとして、そこで思考は途切れた。


――…夢の中でなら思い出せるのだろうか。















(遠い日の記憶)

(大切なハズの記憶を)

(思い出せないのは、)
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