灰男
□Ti amo...
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-コンコン
「んー、鍵は開いてるさー」
ベッドに寝転がって本を読んでいると、突然ノック音が響いた。
一瞬扉に目をやってから返事をし、またすぐ本に意識を戻す。
だから、もちろん控え目に入ってきたのが彼女だってことなんか、知らなくて。
「あの、ラビ……?」
おずおずとかけられた可愛らしい声に、
「うぇっ!?」
慌てて飛び起き、ばばばっと乱れた服を直す。
今日は非番だったからすっげーラフなカッコで、うわ、恥ずかしい。
もっとちゃんとした服装しとくんだった。
そういえば今日は春花も休みだってアレンから聞いてた気がする。
即座に部屋を片付け(なんたってドアから50cmくらいまでしか足の踏み場がない)、笑顔で春花を迎えるとようやく春花も笑ってくれた。
やべ、すんごく可愛い。
俺、コイツの笑ったカオめっちゃ好き。
「悪ィな、散らかってて。
ちょ、ちょっと予想外のお客さんだったもんで」
「あ、ううん、気にしないで。
ちょっとラビと話したくなっちゃって。
……今時間ある?」
「あ、あぁ、全然ひま!!
……つか足の踏み場ねぇな…。
ワリ、ちょっと本とか避けながらこっち来れる?」
「あ……う、うん」
小さな体で一生懸命散らばる本やら書類やらを避けながらこっちに来る。
小動物みてぇ。
「あー……隣、座る?」
「う、うん…」
ちょこんと俺の隣に座る春花。
俺今すっげー幸せ。
春花が隣に座ってるってなんかイイな。
あ、にやけちまう。
「…………」
「…………」
「…………」
なにこの沈黙。
なんで春花何にも言わないんさ?
気まずい………。
「……どうか、したんさ…?」
沈黙に耐え切れず、春花のカオを覗き込むと、ちらりと俺の顔を見遣る春花。
「……///」
上目遣いで、ちょっと首傾げてて……ってそのカオ!!
ダメダメダメ!!
俺そのカオに弱いから!!
紅くなった顔をごまかすように一つ咳ばらいをして、ベッドに倒れた。
春花が話すまで待とう、と決めた瞬間春花があのね、と口を開いた。
「……昨日あたし任務だったんだけど、父親がアクマになっちゃった子がいて。
でも、破壊しなきゃまたたくさんの被害が出るでしょう?」
「………まぁ、そうさね」
腹筋だけで起き上がり、俯く春花を見る。
「それでね、あたし、その父親――すでにアクマになっちゃってるんだけど、それを子供の目の前で破壊しちゃって……」
「うん、」
「大丈夫?って聞いたら『なんでお父さんを殺したんだよ!!』って怒られちゃって……。
あたしがしたことは、間違ってたのかなぁ…。
あたし達は、誰も救えてないのかな、」
「……それは、違うさ」
「でもね、その子泣いてたんだよ。
『お父さんを返せ』って。
『誰も救えてないじゃないか』って。
それ聞いて、あたし不安になったの。
……これでいいのかな…って」
泣き出しそうな春花の声。
それでも必死に抑え込んで。
俺の前で我慢すんな、って言いたいけど、今言うべきことは違う。
「春花はさ、その子のためになることをしたんだ。
たとえ父親を殺したと言われても、それで父親は救われてるハズだから」
春花は優しいから、きっと、その子に何度も謝ったんだろうな。
泣きたくなるのをこらえて。
本当に泣きたいのはその子供だって分かってたんだよな。
だけどさ、今お前の目の前にいるのはその子じゃないんだから。
俺だから。
―――だから、泣いていいんじゃねぇの?
…違うな。
泣いてほしい。
春花の素直な感情を、俺には見せてほしい。
………ってのは、俺のわがままだけど。
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