灰男
□優しいのは、君にだけ
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「あっ、おはようございます、ラビ」
「おーう、おはよ、アレン」
アレン君。
「おはよう、ラビ」
「はよ、リナリー」
リナリーちゃん。
いつも笑顔のリナリーちゃん。
そんなリナリーちゃんに微笑みかけるラビ。
きっとラビはリナリーちゃんが好きなんだろうな。
…うらやましい。
だけど、顔も体型も頭も並もしくは並以下のあたしには、なんの勝ち目もない。
「おっ、春花じゃん。おはよー」
「………!お、おはょ……///」
あぁもう。
なんでいきなり来るのよ!
またちゃんと話できなかった。
『おはようラビ。今日もいい天気だね』
なんて他愛のない話をしてみたい。
でも恥ずかしがり屋のあたしにはそんなことできない。
ふぅ、とラビはため息をついてリナリーちゃんのところに戻った。
二人で話をして、リナリーちゃんが呆れたように笑って。
あたしなんかじゃあの人の隣にはいられない。
「………いいなぁ…」
ぽつりと呟いた。
それは自分にしか聞こえない声。
ぼんやりと絵になる二人を見ていると。
「ジャマだ。どけ」
「―…ゎ…」
ふいに上からかけられた声に、慌てて振り返ると、いつもより三割増しの仏頂面の神田がそこにいた。
「…ゎ、神田……」
「だからジャマだ。どけ」
「別の道通ればいいじゃない」
チッ、と舌打ちを漏らす神田の足を踏んでやった。
別に人が一人しか通れない道ではないのだから。
仮に春花がジャマだったとしても避けるつもりはない。
むしろ、あとからきた神田が避けるべきだ。
キッと神田を睨み上げて、でもすぐに逸らした。
「(…………神田ならフツーに話せるのに…。ラビとはなんにも話せない)」
「……お、オイ、何泣いて…」
神田のうろたえた声。
それでようやく涙を流していることに気付いた。
―理由は分かる。
きっと、自分が情けなくて。
「う〜…っ……ひっく、…」
「チッ、意味わかんねぇ……」
「ぅ、っく……なんであたし…、上手く話せなくて…っ…ふぇ……」
持て余したように、だけど神田は優しく頭を撫でてくれた。
それをラビがじっと見ていたことを、あたしは知らなかった。
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