灰男

□セカイノハテ
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「弱いなぁ。弱いよ、この世界は」


血に染まった掌を空にかざして、澄み切ったその空を、睨みやる。



青過ぎる空が、まるで自分を哀れむかのように。
蔑むように。


「どうしたんさ?」



「あぁ、ラビ。おはよう」


「―!!………また、か…」


「うん」


クスリ。
自嘲気味に笑う。

ラビが、息を飲むのが聞こえた。


そうだね。怖いよね。

そう、これだけの血。怖いワケがない。


身体の中の血が、全てぶちまけられたのでは、と思うほどの血。



一般人が見たら卒倒してしまうような。


「……なぁ、もうやめろよ。
コムイに言って、さ。

俺は、お前のそんな姿見たくねぇんさ」

「…ダメだよ、ラビ。
これは、あたしの生きるリユウなんだから」



「だけど――ッ!!
ヒトを殺すのが生きる理由なんて、そんなの悲しすぎるさ!!
頼むから………俺は、春花のそんなカオは見たくねぇんさ…!!」



これだけの量の血を見てもラビが倒れないのは、きっとラビも似たようなものを見てきてるから。

―彼とあたしで、どこが違うのかというと。


「ねぇ、ラビ。
あたしはね、このセカイが嫌いだよ。弱いだけの、ヒト。

千年伯爵に目をつけられて、堕ちていくヒト。
そんなもの、この世にあったってジャマなだけ。


それを消すのがあたしの役割なんだよ」



――怖い、と思ってしまった。
身体中を朱に染めながら、それでも尚、笑う彼女を。


だけど、そんなことも言ってられない。



「――俺を見るさ!!なぁ、春花!
お前の目に、俺をちゃんと映してくれさ!!」


震える手で抱きしめると、抵抗することなく腕の中に収まった春花。


「――ラビ、泣かないで」


「泣いてなんか……っ…」



「ラビ、お願い。泣かないで。
弱いヒトは嫌いよ。だから、泣かないで。

強いラビで、いて。あたしには殺せないラビでいてほしいの」


「―………っ…」


つ、と頬に伝う涙を、春花の指が拭う。

涙とは違うものが肌に触れ、反射的に身体が揺れた。


それに気付いた春花が、ゆっくりと離れて。


「ごめんね、」



さっきまでとは違い、泣きそうに微笑む彼女を見て、

あぁ、なんてことをしてしまったのだろうと思う。


彼女が求めるものはこんなものではないのに。



俺はまた、間違えたのだろうか。










(解けた糸を結ぶことは)

(なによりも難しくて。)

(離してしまった手は)

(こんなにも冷たい)
 

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