灰男

□淡い願い
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「あのね、」


「うん」


「大好き、だったよ」


「うん」


「すごくすごく、

好きだったんだよ」


「うん、ごめん…な…」



ぽとり。
小さな水滴が頬を伝って、地面に小さなシミをつくった。

きっとこれは涙とか、そんなモノじゃなくて。

少し雲がかった空から零れてきた、雨粒なんだろう。


「……あたし、離れたくないよ…」


「俺だって、同じさ。
でも、俺は、すっげー危ないトコにいかなきゃなんねーんさ。
俺なんて、まだまだ弱ぇーから、正直春花を護りながら戦うことはできねぇ」


「――…ッ…だったら、突き放してよっ!!
なんでっ…離れなきゃならないなら、最初から優しくしないでよっ……!!」


「…………悪ィ…」


「好きだったのに…っ……
こんなに離れるのが辛いなら、好きになんてなんなきゃよかった……」



こらえきれなくて。
崩れ落ちた膝。
勢いよくついた膝は地面と擦れて、血が出た。

でも今のあたしはそんなの気にならないほど悲しくて。

『好きになんなきゃよかった』なんて本心じゃない。
ラビを好きになれてよかった。

だけど、好きになったからこそ。
こんなに好きになってしまったからこそとても悲しくて。


「…春花、俺……」


「―あたし、強くなるから…
ラビに護ってもらうんじゃなくて、自分で自分のこと護れるように、なるから。

だから、それまでは、離れる。
だけど、誰かに護ってもらわなくてもいいくらい強くなれたらその時は、ラビに、会いに行くから」


『だから、待ってて』は、言わないでおこう。


もしかしたらその時には、あたしじゃない誰かがラビの隣にいるかもしれない。

――じゃあせめて。
その時だけは、ラビに笑顔で会えるように。


「―……じゃあ俺、春花のコト待ってるさ。
そんでもし、春花が来るより先に、俺が春花のコトを護れるようになったら、俺から春花を迎えに行くから、さ」


「―――…っ、うん……!!」


な?と悲しげに、でもちょっと照れ臭そうにはにかんだラビの答えは予想とは全然違ったモノで。

涙がこぼれそうになった。


目に浮かぶ涙を、ラビがそっと拭ってくれて。

いきなり目の前が真っ暗になったと思ったら、すぐ傍から聞こえてくるラビの鼓動。


抱きしめられているのだと気付いたときにはラビの服を大粒の涙で濡らしてしまっていた。



「……俺、すぐに強くなるから。

だから、離れるのはちょっとの間だけさ」


そうだよね、と声にできない台詞を口の中で呟いて、きゅ、と唇をひきむすんだ。


我慢、しよう。
ラビだっておんなじ気持ちなんだ。
そう自分に言い聞かせて、自分より頭一つ分高い頭を引き寄せ、触れるだけのキスをした。











(どうかあなたが、)

(いつまでも)

(無事でいれますように)

(そんな想いをこめて)
 

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