灰男

□待ってるから
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「あー………いったぃ…」


血塗れの手を、空にかざす。
自身の血か、相手の血か。

どちらとも分からないものが指をつたって、頬に零れおちた。



傍に転がるのは、屍。
転がる、なんて言っても、あたし自身、似たようなものだ。


「痛いなぁー……死ぬかな、コレ、」



腹の傷を、なぞる。
ぬるり、血の感触、臭い。

何回か死線には立ったけど、今回ばかりはヤバイかもな。


とか。なんでこんな冷静なんだろう。

死ぬ時ってもっとさ、どうしよう、とか、死にたくない、とか思うもんじゃないのかな。
いや、死んだことないからわかんないけど。


あー、でも、眠くなって、きた……
これで寝たら死ぬのかな。



アレだ、きっと。
眠るように死んだ。
とか言われるんだ。


「ははッ……」

自分で言っててウケるとか。
いやでもコレほんとシャレになんないわ。



初めてどうしよう、なんて思った。

あ、今更おせーよ、なんてツッコミやめてね。


こう見えてあたし結構ギリギリだから。



「春花ーっ!!」


嗚呼、ほら。
幻覚…じゃないや、幻聴まで。
あ、幻覚もだ。


これはヤバイ。末期だ。
あれ、怪我で死ぬ時も末期とか言うのかな。

わかんないけど。末期だ。



「春花っ、大丈夫さ!?」


「ら、び………?」



「コムイから、今回はキツイ任務だって聞いてっ、そんで来てみたら、アクマはいっぱい転がってるし、途中で人も転がってるしで、俺、焦って…っ…」


「大丈夫だ、よ……ちょっとくらっだだけ…多分、死にはしな、い…………ハズ」



自信はない。
事実、頭はぼんやりしてるし、血を流しすぎたのか、目の前にあるラビの顔すら霞んで見える。


「へへへ……ここらへんに転がってるの、あたしが全部たおしたんだよ…すごいでしょー……」



なんとか意識を保とうと、必死に言葉を紡いでも、声が掠れて。

「春花っ…もう喋んなくていいさ!!
とりあえず病院連れてくから、なんとか意識保ってろさ!!いいな!?」


「う、ん……がん、ばる……」



嗚呼でもどうしよう。
まぶたが重い。
身体も、重い。

ラビに持ち上げられた身体は鉛のようで。



意識だけは残して、瞳を閉じた。

遠くで、ラビが、あたしの名前を呼ぶ声がする。


気がつけば。



あたしは暗い深淵のほとりに、ひとり座り込んでいた。










(名前を呼んで、呼んで)

(抱きしめて)

(手を差し延べて?愛しい人、)
 

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