灰男
□そのコトバ!
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「なぁ、知ってる?」
「なにが」
「今日、俺の誕生日なんさ」
へぇ、と軽い返事だけして彼女は視線を俺から手元の日誌に戻す。
ちゃんと目を見て話を聞いてくれんのは嬉しーけど、ここまで素っ気ないと悲しいっつーかなんつーか…
「俺としては、さぁ…一言でいいから、なんつーか、言って欲しいことあんだよなぁ…」
ふーん、と聞いてるんだか聞いてないんだか微妙な返事をして、それから、ふむ、と考えだす春花。
そして、ああ!なんて閃いたように手を叩いて、笑顔をこちらに向けた。
え、なに、言ってくれんの!?
ドキドキしながら彼女の言葉を待つ。
期待で胸がいっぱいになって、俺の頭の中では誕生日を迎えた人間に向かって言うあのセリフが輪になってマイムマイムを踊っていた。
「帰れ☆」
ニッコリ。
今までで一番の笑顔。
…ではあるが、それだけにいつも言われているセリフが余計辛辣に聞こえた。
いや、だってさぁ、俺てっきり「誕生日おめでとう!」とか言ってくれんのかと…
結構なダメージを受けてしまった俺は、いつものように「そんなツレない春花が好きさ!」なんて言う気力はなくて、小さなため息をつくと何も入っていないカバンを持って教室から出た。
春花から「え……」と小さな声が聞こえた気がしたが、どうせ勘違いだろうと自分に言い聞かせていつもより少し乱暴に扉を開ける。
これくらいでイライラして、うわ、俺カッコ悪ィ。
ま、いいや。帰ろ。
一気に重くなった気がする足を引きずって、のろのろと教室から出る。
その瞬間に腕をぐい、と引っ張られ、ぐらついた体は腕を引っ張ったであろう人物にぶつかった。
「うぉっ、ちょ、春花!?」
「ごめん…っ、ラビがあんなに傷つくとは思ってなくて、あの、そんなつもりじゃなかったの!ほんとはおめでとうって言いたくて、だから、あのっ、」
「(か、可愛い……!なんだコレ、すんげー可愛い…)」
俺の手をぎゅうぅ、と握って、顔を真っ赤にして。
いやもうほんと可愛すぎ。
春花が言おうとしてる言葉なんてなんとなく分かるけどちょっとイジワル。
「んー?ちゃんと言ってくんねーとわかんないさ」
「だからっ、たっ誕生日おめでとう!」
それだけだから!と言い捨ててカバンを置いたまま教室から出ていった春花。
え、カバン置いてって…どーするんさ!?
ま、しゃーねぇから春花が戻ってくるまで待ってっか。
言いたいこともあるし、な。
(げっ、まだいたの!?)
(ひでーなぁ。俺がせっかく一言いうために残ってたのに)
(……?なに?)
(好き)
(!?///)
((そのカオ、反則!))
お互いの表情にドキッとしちゃったバカップル。
「好き」と「おめでとう」と、言いたかったのはそのセリフ!