灰男

□二つの、
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「ラビー!あのねっ、今日はあげたいものが…」


食堂の入口付近から聞こえた声にびくりと体が揺れた。聞き慣れた声だ。いつもいつもラビの姿を見つけては、大きな声で呼びながら走り寄ってくる。その度に抱き着かれるし、いきなり色んなことを離してくるし、さすがに疲れる。多分、教団内で一番煩い。
そんなのが毎日続くとなれば、避けたくもなるだろう。


「はぁ…。まだメシ食べ終わってねェけど仕方ないか。逃げるが勝ちさ」

食器を素早く片付けると、小柄な春花の上を飛び越えて、そそくさと逃げた。「あっ」と小さな声が聞こえ、ちらりと後ろをみると春花が悲しそうな顔で立ちすくんでいるのが分かった。手には、何か持っているようだった、初めて見たその表情にしばらくの間動けなくなり、春花を見つめていたが、そのうち春花の方から目をそらして食堂の中へと消えて行った。

「なんで、あんな顔…」

―そういえば、何か言いかけてたな。


少し考えてから春花の部屋へ向かった。あいつのことだからメシ食ったら戻ってくるだろ。―そんな考えで待っていたのだが一向に来る気配はない。不安になって、自然と脚が食堂に向かっていた。











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