脱色

□遠くても...
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『ごめんな』

そう残して行ってしまったあの人。

院生時代から、ずっと追い掛けてきた。


護廷隊に入隊して、やっとあの人の下で働けると思ったのに、鬼道の腕を買われてか、配属されたのは四番隊。


それでもちゃんと仕事はこなして。
いつか三番隊に配属された時、あの人の足手まといにならないように、鍛練も欠かさず。



―それなのに。


「………なんで謝るんですか…。
あなたが『着いてこい』って言ったなら、あたしはどこへでも着いて行けたのに」


ぽつりと呟いた声に、返してくれる者はいない。

零れそうになった涙を拭う。


思い出されるのは、あの人のことばかり。

三番隊に配属された日。

『愛ちゃんやね?
話は卯ノ花サンから聞いてたで。
鬼道得意なんやて?
ケガしたら治療頼むわ』


頭を撫でられて、やっぱり好きなんだなぁ、って実感した。


―でも。


――きっと、市丸隊長は、乱菊さんが好きで。

そして、乱菊さんも市丸隊長が好きで。



あたしが入るスキなんてなかったし、もちろん、あの二人の間に割り込むつもりはなかった。


だから、あの日、


『ごめんな、愛ちゃん。
君は連れていけないんよ』


悲しそうな表情でそう言った市丸隊長。

少しだけ、期待してしまった。



でもそんな淡い期待は。




市丸隊長のために泣く乱菊さんを見て、すぐに消えた。


市丸隊長が好きなのは乱菊さんだ。




あたしに言ったのはきっと、あたしがそう望んだから。


だから、違う。
どんなに離れてもお互いを想う二人。



どうせなら、くっついてくれればいいのに。


そうすれば、あたしは諦めることができたのに。




例え離れても、どこか遠くを見つめていた乱菊さんのその瞳には、多分、あの人しか映っていなくて。



真っすぐあの人を想える乱菊さんがうらやましい。


「市丸隊長……。
隊長は、あたしのこと、どう想ってましたか…………?」


やっぱり、返事をしてくれる声はない。




きっと、実る恋ではないけれど。

憎らしいほど蒼い空を見て、あたしは誓った。


あの人を、市丸隊長を想い続けると。


例え届かなくても。


どんなに離れていたとしても。


手の届かないような場所にいたとしても。



やっぱりあたしは市丸隊長が好きだから。


それをやめることはできない。




いつか戻ってきたら、気持ちを伝えよう。

ずっと、好きでした。


って。




きっと、ありがとうって言われて、頭を撫でられておしまいだろうけど。




あたしの気持ちは知っていて欲しいから。









(どんなに遠くても)

(あたしの想いは揺らがない)
 

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