脱色

□そんなあなたが、
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いつもニコニコと微笑んで。

真意は分からない。



ただ、分かるのは。


―――

「隊長っ、おはようございますっ」


「おはようさん。今日も元気やね」


ほら、その笑顔。
それが見たくて、あたしも笑うんだ。


「はいっ、元気だけが取り柄ですからっ」


「………そっか」



悲しげに笑った市丸隊長。

―何か、あるんだろうか。
たまに、こんな笑顔を見せる。


こんな時、あたしは自分が酷く無力に感じて。


いつもの、あの笑顔が見たいのに。
あたしは何もできない。



「…そんな顔、しないでください……」


「…何のことや?」



「………なんで、そんなふうに笑うんですか。
あたしは、いつもの市丸隊長の笑顔が好きです」


「――…ははっ、愛ちゃんはなんでそないなことまで分かるんやろね。不思議やわ」


乾いた笑いをたてる市丸隊長。
―違う、その顔じゃないんです。


「………愛ちゃんまでそないな顔せんでもえぇやろ」


「…だって、隊長が泣きそうな顔するから……」


俯くあたしを、ぎゅっと抱きしめてくれる市丸隊長。



―何も言わずに、行動で示してくれるあなたが、好きなんです。


上手く言葉にできない時は、こうやって別のもので表してくれる。



「ボクな、怖いんよ」

「…何が…ですか………?」



上げようとした顔を、隊長がその胸に押し付けた。

―見るな、ということなのだろうか。


「いつか、愛ちゃんがボクんトコから離れてってまうんやないか、って。
―たまにな?夢、見るんよ。
手ェ伸ばしても、掴めん。
追い掛けても、届かん。

捕まえた思たら、灰になって消えてまう」


それが、怖いんよ。


もう一度同じセリフを言って、その腕の力を強めた。

「それが、ホンマに起こったらどないしよ思うとな、怖くてしゃあないんよ」


「大丈夫ですよ、市丸隊長。
あたしはいなくなったりしませんから。
―隊長こそ、黙っていなくなったりしないでくださいよ?」



「当たり前やろ。
ボクは君残していなくなったりせぇへん」


「ふふっ、よかった」



隊長の背中に自分の腕を回す。

無駄なものはついていない、細めの体。
でも、しっかりと鍛えられた体。


こっそり顔を盗み見れば、いつものように微笑む隊長。



よかった。
あたしにも、何かできたのかもしれない。



「―隊長、


隊長の憂いは晴れましたか―?」


「もちろんや。
愛がおってくれたら、ボクに憂いなんかない。
あるんは…………だけや」



耳元で囁く、声。
聞こえるかどうか、そんな小さな声で、あんなことを囁く意地悪な隊長。



でも、そんなあなたが、









(大好き、なんです)

(囁かれた言の葉は、)

(『君への想いだけ、や』)
 

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