脱色

□そんな彼女の恋心
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「だーかーらー!
知らねぇっつってんだろ!」


離せ!

と騒ぐのは決して男子ではない。



「愛!頼む!」


「だから知らねぇよ!
てめぇのことはてめぇらで落し前つけろや!」


彼女の腕に絡みつくのは、ブラスバンド部、演劇部の面々。

うっとおしげにそれを振り払うと、愛は彼らに向き直った。


「運動部との活動場所争奪戦はてめぇらの問題だろ!
どこにも所属してないあたしには関係ねぇよ!」


「でも俺ら文化部だし……運動部には敵わないんだよー!」

「知るか!だったら頭使えばいいだろ!」


「……あっちにはスポーツできるヤツだけじゃなくて、学年トップレベルのヤツもいるんだよ!」


「それこそ知るか!
つーかそういうことは一護に頼め!
アイツなら金積めばやってくれっから!」


黒崎一護。
最近、雰囲気が変わったと思ったら、いきなりなんでも屋みたいなのをやり始めた。

助っ人なら一護の方が適任だろう。
アイツを助っ人にすれば間違いなく勝てる。


「いや、愛の方が戦い慣れてるだろ!
なんたって通り名は『鬼神』!」


「だぁぁああっ!それを言うなぁっ!
あたしはもう関係ねーっ!」


「ぐほぉっ!
な、なかなかいいパンチじゃねぇか…」


やはりお前が……としつこい演劇部の部長をもう一度殴って黙らせようとした瞬間。



「女が物騒なことしてんじゃねーよ」


振り上げたその腕を誰かに掴まれた。

驚いて振り返るとそこにいたのは。


「一護……!」


苦笑いを浮かべた一護だった。
―――愛が唯一勝てない相手。


たつきには、空手のルールだけならば負けることもあるが、ケンカとなれば負けない。

…チャドも、ありすぎる体格差を利用すれば勝てる。


―ただ一護は。
目の前に立つコイツにだけは勝てないのだ。

ケンカをしても、明らかに手加減してるのにそれでも勝てない。


――故に、愛は一護が少し苦手で、でも少し気になる相手だった。



「……っ…離してよ…」


「お?おとなしくなった」


「………さわんないでよ」


「わかったわかった。そう睨むなよ」



ふぅ、とため息をついて両手を上にあげる一護。

今なら鳩尾に一発くらいいれれるかな。


そんなことを一瞬考えて、でもどうせガードされるだろうからやめた。



「お前、ムリすることあるから、たまには休めよ」


「…別に……」


「そうやって男みたいな口調でも、強くても、お前は女なんだから」



どき、

………嘘だ。
こんなヤツにときめくなんてありえない。

別に今の心配そうな、でもちょっと笑ったカンジがカッコイイとか思ったりしてないから。




「な?」


「……!///」



別に頭撫でられてドキドキとかしてないし!
一護だからとかそういうのもないし!


「〜〜〜〜〜っあとは全部一護に任せるからっ!///」


「え、あ、オイッ!」



真っ赤になっているかもしれない顔を隠して、あたしは廊下を全速力で走り、逃げた。

後ろから一護の声が聞こえた気がしたけど、聞こえないフリをして、やっぱり逃げた。












(これが恋なんて)

(そんなの絶対に)

(認めてやらないから!)
 

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