アイユメ

□Q8
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―屋上にて。





「あー、きたきたー。
遅いよ美夢。待ちくたびれたー」



「う、ごめん……だって今の時間数学で、ハゲたおっさんがうるさくて、」



いや、ほんとに。
うるさいんだよあのハゲ。
てゆーかキモい?みたいな?



だって腹痛いって言ったらトイレ行ってこいとか言われて、いや違うんです、って言ったらじゃあなんなんだって怒られて。


仕方ないからアレ、女の子の日です的なこと言ったら顔真っ赤にして裏返った声で、


「ほ、保健室に行ってきなさい」


とか。

うえぇ、キモ。



「………ま、抜けてこれたんだからいいんじゃない…」


あんなの疲れた声が屋上から風にのって流れていった。


さて本題。


「―――で、アンタはその顔どうしたワケ?」


「………階段から落ちt「た、なんて言わないよねぇ?ホントのこと言いな」ハイ、スミマセンデシタ」




一つ、息を吸って、心を落ち着ける。

言いたいことを整理して、あんなに体を向けた。



あんなは真っ直ぐにこっちを見ていて。

正直に言わなきゃ、って思った。



「……あのね、」



「うん」


「誰にも、言わないでほしいんだ」


「わかった」


真剣な表情で頷くあんなに、こっちまで真剣になる。


あ、真剣になんなきゃいけないんだけどね。


「…昨日、先輩に呼び出されて、」


「………黄瀬君のことね?」


「うん、まぁ………そうなる、かな。

それでね、
『あんたさぁ、黄瀬君のなんなワケ?』とか、
『彼女ヅラしないでくれる?』とか、
『黄瀬君に構ってもらえるからって調子のらないでくれる?』って言われて。
そのあと殴る蹴るでしょー?
蹴るなんて女の子はやっちゃいけないよねぇ」


あはは、なんて笑いながら空を見上げた。

いや、ホラ、今のあんなの顔見てらんないよ。



今にも泣き出しそうな、でも怒ったような顔で。

あたしのこと、考えてくれてるんだな、って思った。




「………なにそれ。
そんなの、一方的じゃない。


アンタは抵抗しなかったワケ?」


「え、うん。
だって抵抗なんてそれこそめんどくさいじゃん」



「なんで抵抗しないのっ!!


………ちょっとその先輩方のところに挨拶にでも行く?」



「いらない。
べつに気にしてないもん。


――あ、でもね、黄瀬君に悲しそうな顔させちゃった。

あんなにも。


あたしはそれが悲しい」



あんなは目に涙を浮かべてる。


それを見て、心配させてるなぁ、ってこっちまで悲しくなって。



「ごめんね、あんな。

でもあたしは平気だよ。



だから、そんな顔しないでよ」


「……何かあったら、ちゃんと言ってよ?」


「うん、わかってる」



「もう少し、ここにいよう?」


「そうだね、気持ちいいし」




優しく吹く風が、髪を弄ぶ。


心地好い風に目を伏せて。




しばらくの間、その風に吹かれていた。








(あたしには、心配してくれる人がいる)




(なんて幸せなんだろう)
 

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