復活

□唄を口ずさみ、
1ページ/1ページ





屋上へ向かう途中の階段で、声が聞こえてきた。

―屋上からの、唄声。


「La・La・La
 どうすれば
 この気持ちは
 あなたに届くの?

 ―今、鳥となり
 あなたの下へ
 飛んで行けたなら
 このさえずりにのせて
 想いを唄いましょう

 ―今、風となり
 あなたの下を
 吹き抜けたなら
 柔らかな風にのせて
 唄を届けましょう―」




-ガチャ


「またキミ?
今は授業中なんだけどって何回言わせるつもり?」


綺麗な唄だ、と思った。
いつ聴いても、そう思う。

本当は聴いていたい。
だけど、風紀を乱すのは許せない。


「だってこんな気持ちのいい日に授業受けてるなんて退屈じゃない?」



それから彼女はそうね、と呟いた。

「あなたがあたしの唄をちゃんと聴いてくれたら少しくらい授業をうけてもいいわ」


そしてまた、唄い出す彼女の唄に、自然と耳を傾けてしまった。


彼女が唄うから綺麗なのか。
声が綺麗だから唄が綺麗なのか。

それとも、唄が綺麗だから声が綺麗に聴こえて、彼女も綺麗に映るのか。


「花びら揺らす
 風が吹く
あの日の唄を
あなたの為に
唄いましょう
小さな恋の唄を―」


「………綺麗だとは思うよ。

―ただ、授業中にサボりながら唄っていなければもっと綺麗に聴こえるんだろうけど」


そう素直な感想を述べたら、彼女はクスリと微笑んだ。

やっぱり、綺麗だ。


「じゃあ今度は放課後にでも唄おうかしら」



「そうじゃなくてさ、」


時間じゃない。

時間じゃなくて、場所。


僕の隣で唄ってほしい。
僕だけにその唄声を
聞かせてほしいんだ。


「なあに?恭弥。じっと見つめちゃって。あたしの顔に何かついてる?」


「そうだね、ついてる。
目の下、あたりかな。
―僕がとってあげるよ」


-ちゅっ



「…………?恭弥、そこは唇よ?」


「うん、知ってるよ。だからキスしたでしょ」



本当は、心臓が止まるんじゃないか、ってくらいドキドキしてる。
でも、そんなの彼女に知られたら馬鹿にされるだろうから。

精一杯虚勢を張ってみせた。



―大きめの瞳を少し細めて。
彼女は柔らかく微笑んだ。


「ねぇ恭弥。あたしがなんでここで唄うか知ってる?」



「知るワケないでしょ」


キミのことなんて何も知らないんだから。



「やっぱり?
じゃあ、教えてあげる」


何か、イタズラを思いついたように彼女は笑って、僕の耳元で囁いた。



目眩がしそうなほど綺麗なその声で。
甘く囁くキミを、僕だけのものにしたいと思うのは、わがままなのだろうか。


「でも風紀を乱すようだとダメだね。

―今度は僕の為に唄ってよ」



「それも、いいわね。
たった一人の為に唄うのも悪くないわ」











囁かれた言葉は。




(あなたがここに来るから。)

(だからあたしは唄ってる。)

(たった一人の観客の為に。)
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ