復活

□おめでとうの練習
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『誕生日おめでとうございます』


さて。
もう何回このセリフを言ったんだろうか。

鏡の前で、たった一言をずっと練習してみた。
いや、していた。

だから、まぁ。
他の人から見たらただのムダな時間であって。

とはいえそれはあたしにとっては結構重要な時間だったりする。


なぜなら。

『雲雀先輩の誕生日なのに…!!
おめでとうが言えないってどーゆーことなの!?』

というワケだ。

雲雀先輩が好きなくせに『おめでとう』の一言が言えないヘタレなあたしは、
鏡に映った自分を相手に、ひたすら『誕生日おめでとうございます』を繰り返していた。


あたしが鏡に映っているだけで、あの雲雀先輩のような麗しい人の代わりにはなれないんだけど。

それでも練習しないよりはマシかな、とか思うワケで。

雲雀先輩を探しながら、鏡を見つけるたびに練習をしている。

よし、もう一回やっとこう。



『雲雀先輩っ、誕生日おめでとうございますっ』


「そういうのって本人に向かって言うモノだと僕は思うんだけど?」


『うーん、頭では理解してるんですけど、本人を前にしたら言えなそうで……
練習してたんですよねー』


と。
言い終わって、声がしたほうを振り返ってみたら。

『ひ、雲雀先輩……!!』


「やぁ、僕を目の前にして堂々と授業をサボるなんて、余程噛み殺してほしいみたいだね」


『(雲雀先輩になら噛み殺されても………いやいや、それはさすがに…)
いえ、あの、ぇと……」


怖い。
けどカッコイイ。
あのちょっと上から見下ろすカンジがまたいい。

なんでこんなにカッコイイんだろう。


はぁ、と失礼ながらため息をついてしまった。
ため息、というかなんというか。

見とれていて、雲雀先輩が目の前に来ていたことには気付かなかった。


「で?それは僕へのプレゼント?」


『へっ?あ、はい。
気にいっていただけるか……
ってゆーよりまず受け取ってもらえるかどうかの問題でして、
あ、その前にあたしまだ先輩におめでとうを言えてないです。
遅ればせながら、誕生日おめでとうございます』


なんだ、案外簡単に言えるモノだったじゃないか。

なんであんなにいっぱい練習したんだろう。
いやでもいっぱい練習したからこそ今言えたのかもしれない。

そう考えると、やっぱりさっきまでの時間はムダではなかったのかな、なんて思ったりして。


「ん、ありがと。
とりあえず貰っておくよ。
あともう一つ。僕の欲しいモノを教えてあげる」


え、なんですか。
と聞こうとして。
口を半分ほど開いたところであたしの唇に触れた『なにか』。

ふにふにしてて。
あったかくて。

ちゅっ、と軽いリップ音をたてて離れた『それ』は、お気づきのとおり先輩の唇だ。


そのあと耳元で囁かれた言葉というものは。












(もう一つ、欲しいモノ)

(それは、)

(君なんだよ、あんな)
 

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