黒籠
□はっぴーにゅーいやー
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今日は12月31日。
時刻は22:38。
かれこれ3時間以上震えることのない携帯を握りしめて、こたつの中にいる。
「涼太、遅いなー……。
また、仕事入ったのかな…」
泣きたくなるのをこらえて、あと少し待ってみようと決めた。
それでもやっぱり不安で。
涼太はモデルだから忙しくて、なかなか時間はとれないのもちゃんと分かってる。
―でも、年に一度のクリスマスとか、年越しとか…そんな恋人達にとって特別な日くらい、一緒にいたい。
クリスマスは、途中で仕事が入った。
涼太の誕生日は、当日仕事だったから次の日に祝った。
あたしの誕生日は、
………やっぱり仕事で。
調度忙しい時期だったらしくて結局一週間後。
ちゃんと涼太は祝ってくれたけど、あたしの誕生日はあの日だけなんだよ。
…なんて、頑張ってる涼太には絶対言えないけど。
なんだかんだいって、涼太はちゃんとあたしのこと考えてくれてる。
「…でも悲しいよ。」
一年の最後と最初くらい一緒にいたいって思うのは、わがままなのかな。
でも、こんなときくらいわがまま言いたい。
涼太はモデルだから学校で会うことは少ないし、来てもすぐ女の子に囲まれちゃうし…。
「………やめた。涼太は絶対来てくれるもん。
来るって言ったから、ちゃんと来てくれるよ。」
―その瞬間、
-〜♪〜〜♪
携帯が鳴った。
慌てて画面を見ると、
「……なんだ。」
友達の名前。
失礼だけど、残念。
ふと時計に目をやる。
時刻は23:16。
そろそろ家出なきゃ。
涼太に家を出る、とメールしてから準備を始めた。
10分程でその準備を終えると、神社へ向かう。
「やっぱり来ない、か。」
わかってたけどね、と口の中で呟きながら、時折カップルとすれ違い、悲しくなる。
いちゃついてんじゃねーよ、ばーか。
来ないってわかってても、やっぱり寂しいよ涼太。
また泣きたくなったけど、今泣いたら涙が凍る。
ポケットから手を出し、携帯を見る。
……やっぱり連絡はない。
見なきゃよかった、と胸中で悪態をつき、素早くしまう。
こんなのあってもなくても連絡がこないなら意味がない。
(カップルばっか。ほんとなら今頃涼太も一緒にいるハズだったのに。)
白い息を吐きつつ、もう来ないかな、なんて思ったり。
でもやっぱり心のどこかでは信じてる。
「美夢ーっ!!」
あ、幻聴。
やば、あたしもう末期?
だってほら、幻覚まで見えてきたもん。
黄色い頭で、みんなより頭一つ分高くて、カッコよくて。
そんな人が、あたしなんかのために息切らして走ってくるなんて、
「――…はぁっ、はぁっ……よか、った…まだ神社、行ってないッスよ、ね……?」
ほんとの涼太だ。
肩で息をして、こんな寒いのに汗かくくらい一生懸命走ってきてくれた。
「ばか、遅いよっ。
あたし一人ぼっちで、せっかく一年に一度の大晦日なのに、あたしずっと待ってたのに連絡くれないしっ」
「え?……あ、携帯見てないッス。
とにかく早く美夢のとこ行こうってそればっかで……」
そんなこと言われたら怒れないじゃんか。
ま、最初から怒ってないけどさ。
「…もう、嘘だよ。
来てくれてすごい嬉しい。
………こんな汗かいて、風邪ひくよ?」
「その時は美夢に看病してもらうから。
あ、あと、明日から三日間だけど、休みもらったから。」
「………うそ、」
「ほんと」
「じゃあさ、明日もあさってもずっと一緒にいれるっ?」
「うん」
まだ疲れたような顔で、でも嬉しそうな顔で涼太は頷いた。
「涼太大好きっ!!」
「っわ……!///」
涼太は、思いきり抱きついたあたしを、ちょっとよろけながら、それでもちゃんと受け止めてくれた。
(涼太、なんてお願いした?)
(ん?秘密。)
(む…あたしはね、これからもずっと涼太と一緒にいれますようにって。)
(…………かわいい)