黒籠

□ふざけたフリして実は、
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「美夢ーっ」



今日もまた。
いつものように君の名を呼ぶ。



―――

「なぁなぁ美夢ー、英語の教科書貸してー」


にへらっと笑えば、美夢も笑って。

「仕方ないなー」


なんて言いながらちゃんと貸してくれんだよな。


「サンキュー、二限目終わったら返しにくるわ」

「あ、うん。落書きとかしないでよー?」



笑いながら話す美夢に、高鳴る俺の胸。

……って俺は乙女かっ!


「じゃあまたあとでな」


「うんっ」


あ、かわいい。
コイツはさ、笑顔で男をオトすんだよ。


いや、無自覚だろうけど。


―――

「美夢いるかー」


教科書をひらひらさせながら、美夢の姿を探す。


……あれ、いない。
端から端まで目をこらしてみても………


いない。


「あっれ〜?いないなー。どこ行ったんだろー」


次の時間に返すか、と口の中で呟いて踵を返した。



―その瞬間。

「高尾っ、」


美夢の声がして、そのあとにきたのは小さな背中への衝撃。


振り返ってみれば。



「た、高尾、いきなり止まんないでよ……鼻ぶつけたじゃない…」


鼻をさすりながら上目遣いに見上げる美夢がいて。



「あー、悪ィ悪ィ。どこ行ってたんだよ?
教室にいねーから探しに行こうかと思ってた」


「はい、ウソ。今自分の教室入ろうとしてたよね?

間違いなく探す気ゼロだったよね?」


「あ、バレてた?」

「当たり前でしょっ」


怒ったような声で。
でも、

顔は密かに笑ってて。


「あ、なぁなぁ、」

「ん?なに?」


「あとで教科書ん中見てみ。
すっげーおもしろいこと書いてあっから。


あ、今見るなよ。
英語の時間に見るのが一番いいと思うぜ?」


ニヤリと口角を上げて、さもふざけたように笑う。

うん、俺に真面目は似合わないから、やっぱこういうフインキじゃないとな。



「?う、うん………わかった」

美夢はバカで素直だからな。

これで美夢はちゃんと英語の時間に教科書を見るだろう。



「……ってゆーか落書きしないでって言ったでしょーっ!」


「ははッ、許せって!」


やっと落書きされたことに気付いたのか、今度こそ怒って追い掛けてくる美夢。


俺は舌を出しながら逃げて、教室の中へ。


自分の席に座ってからチラリと廊下を見たら、口パクで「高尾のバカッ」と言っていた美夢。



そんな行動すらもかわいくてニヤついていたら。



「一人でニヤついているなど気持ち悪いのだよ高尾」



偶然席の近くを通った真ちゃんに心底気持ち悪そうな顔をされた。

「真ちゃん、それはヒドイんじゃねぇ?
親友に対してさー」


「お前とは友達ですらないのだよ」

そんなことを言う真ちゃんにヒドイなー、なんて言いながら、考えるのは、あの教科書を見た時の美夢の顔。


驚くだろうな、きっと。








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