黒籠

□仕方ないだろ?
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「おはよッス、美夢サン」


「あ、おはよー黄瀬君」


「今日もかわいいッスね」

「ふふっ、ありがとう。でもそんなことないよ?」


ふわりと笑う美夢に、つい目を奪われる。



俺は黄瀬みたく器用じゃねーからあんなふうに話しかけたりできねぇ。


できることと言えば。


バスケ部主将っていう立場を利用して部活のことを最低限話すくらいだ。

……だから、まぁ。
つまり俺は、美夢が好きなワケで。


でも黄瀬もどうせ好きなんだろ。
勝ち目………は、ねぇよな。
悔しいけどよ。




でも美夢は優しいから、誰か知ってるヤツを見つけたら必ず挨拶しにくるんだ。


「あっ、笠松先パーイ!!
おはようございますっっ」

例えばそれが俺でも、な。


「おぅ、おはよ」

ふわり?
にっこり?


……ふにゃり…?

うん、これだ。
これが一番合う。


ふにゃりと美夢は笑って、頭を下げると黄瀬の所に戻って行った。



「…………はぁ、」


とっさに伸ばした手は、虚しくも空を切った。
―――なんだよ。
黄瀬のヤツ睨みやがって。

安心しろ、お前ほど仲良くねぇよ。


……お前が羨ましくてしょうがねぇ。
自分でも情けないほどな。




―――

「全員集合ー!!


今日はこれでおしまいだ。
二人一組でストレッチ念入りになー。

美夢は話あっからちょっとこっちきてくれ」



「あ、はいっ」

ぱたぱたと駆け寄ってくる美夢。

小動物かなんかみてぇだな。


「明日、部活一日中だろ?

だからもしよかったら差し入れ作ってきてくんねぇかな。
量はいらねーから、なんかつまめるモン」


「いいですよ。

…あと、…あの、ぇと、オレンジ切れちゃったんで、買い出し一緒に来てもらえませんか……?」


「あ?お、おぅ。俺でいいならいいけどよ」



「はいっ、お願いしますっ」


うわ、すっげー笑顔。

……やっぱ、かわいいよなぁ…。


なんて思ってたら、いきなり美夢の後ろに黄色い頭が出てきた。



「…なんで俺のコト誘ってくんないんスかー…」



「き、黄瀬君っ…いきなり抱き着かないで、っていつも言って……」

「だって美夢サン聞いてもダメって言うじゃないスか」



「そ、そりゃあ……黄瀬君のファンにあたし殺されたくないもの」


まぁそりゃそうだ。

「…うっせぇな。べつにお前のことは誘ってねぇだろ。

さっさとストレッチしてろボケ」


……………くそっ

俺はガキかっつーの。
黄瀬なんかに嫉妬してんじゃねーよ。


でも、そんぐらい余裕ねぇのも本当のことだ。

なっさけねぇな、俺。


「……先輩、ストレッチ終わったら声かけてください。


手首、痛めたでしょう?
テーピングしてあげますよ」


「…よく見てんな」



「だって、笠松先輩ですから!!」


…………んなこと言われちまったら期待するだろーが。

無意識ってのは知ってるけどよ、好きな女にこんなこと言われたら期待しちまうだろ?



っつーか、期待したいだけだったりもすっけど。


「笠松先輩だから、知ってるんです。

もう、なんで分からないんですか」



…………自惚れるぞ?俺。

なんでそうかわいいことをそんなかわいい顔で言うんだよ。



あーもう俺抑えらんなくなりそう。

いや無理矢理抑えてるけどな。









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