黒籠

□残ったのは
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おはよう。


綺麗な声で囁く彼女に、胸が高鳴る。



「おは、よう…」


俺はといえば、少し目を泳がせながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐだけ。

クスクスと小さく笑う彼女に若干非難めいた目線を向け、でもすぐに逸らす。



「涼太、今日部活は?」


「あ、な、ないッス!」


「そう。それなら今日は家でゆっくりしよっか」



ふわりと微笑む彼女は綺麗で。
思わず見とれてしまった。


どうしよう。
やっぱり俺、この人のこと大好きだ。

なにをしてても愛しいと思えて。
「涼太、久しぶりにゆっくりできるね。
あとでマッサージしてあげる」


「え、いいッスよ!美夢だって疲れてるだろうし……」


「遠慮しなーいの。
あたしが涼太のマッサージしたいだけなんだから」



「でも……」


それでも、自分と同じように、部活をやっている彼女にばかりしてもらうのは、申し訳ない。


だから。


「じゃあ、俺もやってあげるッス!」


「えー?できるの?」



「た、多分……」


「んー、じゃああとでお願いするね」


もう一度微笑んで、美夢はカーテンを開けた。

美夢の漆黒の髪に陽の光が反射して、艶やかに輝く。



「(うわ、キレー……)」
「どうしたの?涼太、」



「いや、ぇと、美夢がキレーだなって思って……///」


少し屈んで、顔を覗き込んでくる美夢。

はらりと落ちた髪が、さらに美しさを際立てて。



「(やべ、我慢できないかも……)」


無防備なその格好に、気がついたら俺は、彼女を押し倒していた。



驚いた表情を浮かべる彼女もまた、かわいい。


キスをすれば、微かに抵抗して。
でもすぐに諦めたのか、控えめに俺の服の裾を握った。



「……そんなことされたらさぁ」


止めらんないじゃん。
呟いた声は、窓から入ってきた風の音に流されて、消えた。






残ったのは。









(すぐそこにある君の体温と)

(俺から君への想いだけ)

(それ以外に何が必要?)
 

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