黒籠
□ほんとはね、
1ページ/1ページ
「てーっぺい♪」
「ああ、美夢か」
「今日も来ちゃった」
「んー、でもまた遅くなるぞ?」
「いいの」
心の底から嬉しそうに言う美夢。
少し顔を赤くさせながら練習に戻った木吉と入れ違いに、リコが美夢の隣に座った。
「美夢もよく飽きずに毎日くるわね」
「んー、だってさ、鉄平が楽しそうだとあたしまで楽しくなってくるんだもん。」
「そう」
「…………あのね、リコ。いきなりなんだけどさ、」
くるくるとよく変わる表情を、美夢は一瞬でなくした。
ふと、真剣な表情になった美夢を見て、リコもきゅっと唇を引き締める。
美夢は少し間を空けて、それから一息で言い切った。
「『花宮 真』っているじゃない?
その人だよね、鉄平の脚傷つけたの」
「……ッ…」
肯定はしないが否定もしない。
そんなリコの態度に美夢は確信し、やっぱり、と呟いただけだった。
「……あたし、ソイツに会ったよ。
少し、話をしたけどアイツは鉄平の脚のコト、少しも悪いって思ってないの。
………鉄平がどれだけ大変だったか知らないクセに……!!
例え事故でも、鉄平が苦しんだことには変わりないんだよ?」
それなのに……と泣きそうになる美夢の肩を、リコが優しく抱いた。
きっと、鉄平には言えなかったのだろう。
花宮真に言いたいこともあったろうに、言ってもムダだと判断して、何も言わなかった。
「ひっく……なんで、てっ、ぺい…が、あんな辛い思いを……ッふ、…しな、くちゃならなかったの………!?
変われることなら、あたしが変わってあげたかった……!!」
今まで溜め込んだ思いを吐き出すかのように。
ぼろぼろと涙を零しながら、美夢は必死に訴えた。
そしてそれは。
当たり前ながら木吉の耳にも届いていて。
「………美夢、」
高い位置から、優しくかけられた声に、慌てて涙を拭う。
差し出された手に掴まり、立ち上がると。
-ぎゅうっ
「ひゃ…っ……!?
ちょ、鉄平………?」
「ありがとな、心配してくれて。
……俺的にはさ、毎日笑って、俺は大丈夫だって伝えてたつもりだったんだけど。
やっぱりお前には見抜かれてたか」
「………っそうだよ…!!
あたし、もしかしたら鉄平がこれからバスケできなくなるかもしれないって思ったら怖くて、でも頑張ってる鉄平にはそんなこと言えなかった……っ…」
「うん、でも俺はもう大丈夫だ。
だから、安心して試合、見にこいよ」
「っうん、」
(いつも俺の為に泣くキミを)
(一生手放さないと決めたから)
(だからずっと、笑ってて)