黒籠

□教室ラプソディ
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その日も、同じように部活をやって。

いつも通りに帰る予定だったんだ。


だけど。



「あ、ヤベ、忘れ物した。
真ちゃん、先に帰ってていーよ!」


「言われなくともそうするのだよ」


「……せめてためらいを…!」


「じゃあな」



早っ!と玄関に向かって歩く真ちゃんの背中に呟いて、それから教室に向かった。

あーあ、ツイてねぇなぁ。


胸中で少し愚痴りながら、多分自分の忘れ物があるであろう教室の扉を開ける。

と。


窓辺に、一人の女の子が佇んでいた。



「うぉっ!?」


「誰……?
あ…、高尾君………」
「?あ、美夢?」


「うん」



ゆっくりと振り返ったのは、同じクラスの美夢。

大人しい子で、あんまり目立たない。
俺もそんなに興味はなかった。けど。


夕焼けに照らされて、どこか憂いを含んだような美夢の表情が、どうしようもなく綺麗に見えて。

一瞬だけではあるが、心臓が高鳴ったのを感じた。


美夢って、こんな綺麗だったっけ。



「部活、終わったの?」


「え、あ、おう」


「そう、お疲れさま」


「さんきゅ」



あ、話してみると意外にフツーだ。
もう少し暗いカンジかと思ってたんだけど。


…………で?
なんでいるの?

「……!え、ちょ、泣いて…え、俺なんかした!?」


ふと美夢を見たら、彼女の頬には透明な液体が伝っていて。
「え?あぁ、うん。ごめん。
別に高尾君のせいじゃないよ」


ちょっとね、
と呟いた美夢は、今にも消えてしまうんじゃないかってくらい儚げで。

とっさに、美夢の腕を掴んだ。


「あ、いや……泣くなよ」


「あたしが泣こうとしてるんじゃないんだけど。
勝手に涙が出てくるの」


「俺、ぇと、お前の泣き顔好きじゃねぇみたいだから、泣くな」


なにそれ。

ふわりと笑ってそう言った美夢に、また、ドキッとして。


ああ、うん。
分かってるさ。

コイツを好きになった、ってことくらい。

ただ、今はまだ気付いてないことにしておこう。


だってほら。
友達としてなら、抱きしめて慰めることもできるだろ?











(お願い、今だけは)

(どうか、君に)

(触れさせて)

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