黒籠
□ねぇ、反則
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「あ、美夢先輩…」
ふと、呟いた。聞こえてしまったのだろうか、彼女はぴたりと足を止めた。誰?と尋ねる声は鈴のように可愛らしい声で。
「…あ、ぇと…」
「綺麗な髪ね。染めてるの?」
「あ、ハイ…」
「染めてるのにあまり痛んでないのね」
小柄な美夢先輩は、少し背伸びをして俺の髪に触れた。ふわり。シャンプーだろうか、柔らかい香りが鼻をかすめた。
「(ぅ、わ…イイ匂いする…)あ、一応ケアはしてるんで…」
「へぇーっ、えらいね。あたしなんてアイロンやってるのにケアとかあんまりしないから痛んじゃって」
「えっと…先輩もそんな痛んでないと思うッスけど…」
「そう?ありがとうね」
ふんわり笑った先輩はとてもキレイで、ドクンと脈打つ心臓の音が聞こえた。そんなことを頭の隅で考えているうちに、ふと本題を思い出した。
それじゃあね、と踵を返そうとする美夢先輩の手を掴んで、そのままきょとんとしている先輩の手を握る。
「あのっ…、俺、バスケ部の、黄瀬凉太っていいます!」
「凉太君っていうの?そう、覚えておくね」
「あ、や、ぇと…よかったらアドレス…とか教えてくんないッスか…?」
「アドレス?いいよ。あ、でもあたし今携帯ないから…。バスケ部って言ったよね?じゃあ笠松君に聞いてもらえるかな。多分知ってるから」
「キャプテンにッスか…」
「あ、聞きずらいかな。じゃあ凉太君携帯持ってる?」
きゅ、と小首を傾げる仕種にドキッとしながらも、少し震えた手で携帯を差し出す。
美夢先輩はそれを慣れた手つきでいじり始めた。
今更になって何かイケナイものはなかったかと不安になって、でも先輩の表情からすると多分そんなものはないだろう。
「ん、はい。ありがと。凉太君のアドレスメモしたから今日メールするね?あ、それとも部活で忙しいかな?」
「ぜ、全然大丈夫ッス!」
「そう?じゃあ今日するね。それと凉太君の携帯、あたしとおんなじ」
「!///」
そんな笑顔、反則。
ちょっとはにかんだように笑うなんて、可愛すぎる。
「それじゃあ、ばいばい」
ぼんやりしているうちに、美夢は手を振っていて、慌てて俺も振り返した。
(笠松主将、)
(あ?)
(美夢先輩ってめちゃくちゃ可愛いッスね…)
((……俺も狙ってたのに…)そうか?)