恋ノ唄
□05
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ラビにおぶわれて戻ってきたのはさっきと同じ、室長室。
ゆっくりとソファーにおろされ、深く腰かける。
「そういや春花の部屋はどこなんだろうな」
一人一人個室なのか。
まぁ、当たり前なのかもしれない。
こんなに大きな建物なのに個室じゃないほうがおかしい。
あまり、人がたくさん集まるような場所の近くにはなりたくないな。
人と触れ合うのは苦手―と言うよりも嫌いだから。
「ラビと近くになれればいいね」
それでも、仲良く見せるためには、心にもないことを言ったりして。
にこにこ笑っていればいい。
―ラビの表情が微妙に変わったことに、ほんの少し、疑問を抱いた。
「どうかした?」
「………なんでそうやって笑うんさ?」
もっとちゃんと笑えば?
「―…っ、なんで、」
わかったの?
そう聞こうとして、口を開きかけたが、また閉じた。
わかったの、と聞けば、『ちゃんと』笑ってないことを認めたことになるから。
「『なんで、』か…。そんなの見てればわかるさ。
最初に会ったときはもっと冷たかったさ。
―でも今はなんとなく話すようになったから、さね」
「それがどう関係あるの」
ふい、と目をラビからそらし、たくさんある本棚を見つめた。
このまま、ラビの目を見ていたら全てを見透かされそうだったから。あの、隻眼に惹き込まれてしまいそうになるから。
視線を本棚から外さないまま語りかける彼の声に耳を傾けた。ゆっくりと話すその声が、心地よく響く。
「最初に会ったときはともかく、これからはもう、春花はここにいるだろ?
だから、形だけでも仲良く、とかそんなんじゃないんさ?」
「っ、べつに―……。
べつに、そういうんじゃないよ。
ラビと仲良くしたいと思っただけ」
知った風なこと、言わないで。
「……俺の勘違いならいんだけど、さ」
「そう、勘違い。ラビの勘違いだよ」
そう言い残して、春花はソファーに横になった。
「おい、どうした?」
「……疲れただけ」
そっとまぶたを閉じたけど、それはべつに眠った訳ではなくて。
単に閉じただけ。
昨日の公園での出来事から一日しか経っていないのに、心が疲れているような気がした。
そうして、初めてのことだったのだからと自分に言い聞かせながら、横になったソファーの上で深く、深く息を吐いて、目を閉じた。
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