恋ノ唄

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「えーっと、」

それしかでてこなかった。



長い(というほど長くもない)道のりを歩いてきて、これはないだろう。


賑やかな街に着いたと思ったら、すぐに街を抜け、そこからさらに歩を進めて郊外に出た。

500メートルも離れていないだろうに、この土地は先程の街の半分ほどしか賑わっていない。


閑散とした街。
おそらくはここがカトル村なのだろう。

歩いていて何もない村だなとは思ったが、本当に何もなかった。


―ただ、そこら中に水の気配が満ちている。

この涸れたような地で水の気配がここまでするのはおかしい。


そんなことを考えながらラビの背中を追っていると、やがて一つの大きな(とは言っても、ほかのこじんまりとした民家よりも一回りほど大きいくらいだが)建物を見つけた。



「ここが、今日から泊まる宿さ。
まぁ村の状態が状態だから、見つかっただけでもありがてーと思んなきゃな」


「ほんとにー…?」


「ダイジョブダイジョブ。
見た目はこんなんでも、中に入ればそうでもねーって」


ラビの言葉に、ほんとかなぁと口の中で呟いて、とりあえず旅館の中に入った。


「……ぁ、意外とキレイ…」



「だろ?見た目で判断しちゃいけねーんさ」


「そだね」


適当に相槌を打ちつつ、辺りを見回しながら歩く。
―とは言え、そんなに大きくもない建物。


入り口からすぐのところにある階段を上り、数メートルも歩けば部屋についてしまう。



「どんな部屋なんだろうなー」

楽しそうなラビを横目に、ちらりと神田を見遣った。

相も変わらず仏頂面である。



(………結構キレイな顔してるんだよなぁ……)


最初に会ったときはあまりいい印象はなかった(別に今も好印象ではない)のだが、まぁ、キレイな顔はしてると思う。



気付かないうちに見つめていたらしく、神田の舌打ちでふいっと目を逸らした。


見てたくらいで舌打ちしなくてもいいじゃないか。

春花は内心ため息をつきつつ、ラビが勢いよく戸を開けたその部屋を見て、自分の目を疑った。



その隣でラビが、焦ったような声で呟いた。


「いやいや、ちょっと待って」


「いや、もう開けちゃったし」


こじんまりとした部屋に、布団が一つと少し大きめのソファーが一つ。


春花くらいの高さがありそうな、無駄に大きい窓が一つ。



――少し開いた窓から、渇いた風が吹いてきた。


それで我に返り、ずかずかと部屋に入った。

「ま、ここで突っ立ってても仕方ないし部屋入ろ。
そんで、後でファインダーの人と合流して村を調査しなきゃ」


ね?と聞いてもラビから反応はない。

ラビが固まっている理由は一つ―。


『布団が一つ』

そのことである。


春花達は、ラビ、神田、春花の三人で、しかもそのうち二人は男。


普通なら春花が動揺するところだと思うのだが、生憎今はそれどころではない(………と、思う。さっさとイノセンスがあるのかどうか調べるべきだ)。



しばらく魂が抜けたようなラビだったが、イラついた神田に蹴られて半ば転がるように部屋へ入ってくる。


「ほら、荷物置いて。
布団のことなんてどうでもいいからシャキッとしてよ」



『布団』という単語を出した途端、ラビの顔が赤くなったり青くなったりした。


「……なんでそんな冷静なんさ!?
だって布団が一つってことは俺と春花が一緒に寝るってことだぞ!?」


「ばか、神田がいるでしょ。
そしたら神田とラビが布団で寝てあたしがソファーで寝れば問題ないんじゃない?」



「問題ありすぎィイッ!!
まず春花は布団!!女の子がソファーで寝るなんてダメさ!!
別に俺らは床でもソファーでもいいんだから!!
あとヤロー二人で布団はぜってーダメさ!!」



「ふはっ、冗談だよ」


まさか本気にされるとはおもわなかった。
ラビはブックマン(まだ後継者扱いだが)なのに意外とバカなのだろうか。

男二人が布団で寝るところなんかこっちだって見たくない。


神田もさっきから露骨に舌打ちをしている。



「ラビ、大丈夫だってば。
布団にはあたしが寝るから」


「おう」


「よし、じゃあ村に行こう。
とりあえずファインダーの人と合流しなきゃ。
あとは各水源を回って…」


「俺は別で行動するぜ」


隣からぼそりと呟かれた声に振り返ると、一層仏頂面になった神田が踵をかえし、部屋から出るところだった。


「…な、待ってよ神田、」












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