恋ノ唄

□23
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歩き回って早二時間。



あの少年以来、怪しい奴は見ていない。
―――というよりも、人が少ない。



よって、神田のことも見つけやすい――そうふんだのだが、一向に見つからないので、春花はイラついていた。



「(なんであたし達がわざわざ神田なんて探さなきゃいけないワケ。
神田が勝手に出てったんだから放っておけばよかったんじゃない)」



少しでも探してやろうと思った自分がバカバカしくなって、ため息をついた。

―大体、人を見ていきなり斬りかかるなんてどうかしてる(元々は春花のせいなのだがそこは気にしてはいけない)と思う。



というか、あっちが先に失礼な態度をとったのだから仕方ないことだ。




「………にしても、」


前を歩くラビからこぼれた声で我に返る。

「なに?」



「神田、見つかんねーな」


「…そだね。どこ行ったんだろう」



-ズキン



「………っつ…」

急に左脚が痛んだ。
目をやると、太ももの辺りが切れている。


血が出て、脚に力が入らなくなるのが分かった。



「ラビ……!ちょっと、待って…」


(クスクス……)

――ふと、頭の中に響いた声。
あの少年の声に似ていた。
更に、腕にも何かで斬られたかのような傷痕。

「―……ッ…!!」


辺りを見回すが、それらしい人影はない。
しかし声は、まだ聞こえてくる。


「―どうしたんさその脚!?」



後ろから聞こえた春花の声で気がついたラビが、春花の傷を見るなり血相をかえて走り寄ってくる。


わからない、と答えて歯を食いしばった。
手で傷口を抑え、止血に使えそうな布はないかと周囲に目を走らせるが、残念ながら見つからない。


一瞬団服を破ろうかと思ったが、この団服、かなりの強度である。



そう簡単には破れないだろう。


「ほらっ、コレ使うさ!!
さっさと止血しねーとお前死ぬぞ!?」

ラビが、慌てていつも自分が首にかけているのを差し出してきた。

いいのだろうか。


一瞬迷ったが、ありがたく受け取る。


「あ、いや、死にはしないけど……これくらいの量だったらすぐ止まる」



「…あと腕もじゃねぇか。誰にやられたんさ――…?」


「……笑い声がね?聞こえたの。
あの男の子の、笑い声」


「………?」


困惑したような顔をしているラビ。
それでも春花は話を続ける。



「脚を斬られたあと、笑い声が聞こえたの。
そのあとすぐに腕も斬られて……
刃物っていうよりも、どちらかと言えば風で斬られたような気がする」


ふむ、と少し考えるそぶりをしてから、ラビが何かを思いついたような顔をした。


「………なるほど、ね―…
アイツは風を使うワケか。
多分、あのアクマは俺らに目をつけたんさ。
―当たり前だろうな。俺達はエクソシストだし」


「それであたしを狙ったって事ね…?
じゃあ神田も危ないんじゃない?」



「…アイツは大丈夫だろ。
アイツは何が来ようと一人でできるヤツさ。
―そんで春花のことは俺が守ってやっから」



にへ、と笑ったラビに、なんとなく安心はしたものの、気は抜けない。

不安のせいか、震え出す手を固く握りしめた。



「………どした?」


「……なんでもないよ?
さ、神田のこと探しに行こ」



くるりと体を反転させ、ラビの前に立つ。

歩き出そうとしたところで――

「…だから、ムリすんなって……っ…」


ラビの悲しそうな声が耳元で響いた。


それと同時に感じる、背中の温もり。



「―…っべつにムリなんかっ…」


「…じゃあその震えてる手は何なんさ。
―――修業もしてない、アクマと戦ったこともない、イノセンスだって持ったばかりのお前が、怖くないワケないだろ!?」




ぎゅうっと抱きしめられ、ラビの感情が痛いほど伝わってくる。



「大丈夫だってば。
怖いことなんてないもん。
――…ラビが、守ってくれるんでしょ…?」


振り向き様、にこ、と笑ってみせれば、


「おう!!任しとくさ!!」


満面の笑みを、少し顔を紅く染めて浮かべるラビがいて。



-どき、



―――まただ。
ラビといるとき、たまに心臓の鼓動が早くなる。



でも今はそんなこと気にしていられない。

小さくお礼を言って、ラビの腕からすり抜けるとまた歩き出した。












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