恋ノ唄

□24
1ページ/1ページ





「――………ん……」


ふと、目が覚めた。

目の前に広がるのは――白。


壁も、天井も、そして今自分が寝ているベッドも、白。



「―――ッ!?」

瞬時に起き上がり、辺りを見回す。
どうやら、病院のようだ。


ふと、視界の端に赤毛をとらえ、視線を落とす。



そこにいたのは、いすに座りながらベッドにもたれかかるラビ。


「――…ッつ……」


頭が覚めてきたところで、肩に鋭い痛み。



それに顔を歪めていると、

「ムリ、すんなさ。
結構重傷でしかも出血もかなりのモンだったしな。」

いつの間に目を覚ましたのか、ラビが優しげな表情でこっちを見ていた。

しかし、どこか焦りと哀しみが浮かんでいるようで。



ゆっくりと体を倒した。


「あのあと二人がかりでやっとアクマ倒したんさ。
イノセンスはアクマが持ってた。
それもちゃんと手に入れたさ〜。」



「そう……よかった。
……あたし、どれくらい意識なくしてた――?」


「そうさね……ま、二日ちょいくらいかな。
そう長い間でもねぇさ。」


「――……来なきゃよかった……」


「―――え…?」


ぽつりと呟かれた春花の声に、ラビが聞き返す。



春花はまた、小さな声で同じ台詞を繰り返し、だって、と付け足した。



「……こんな足手まといみたいなことになって……。

あたし血流して倒れただけだもん。
ラビと神田に迷惑しかかけてない…。

だったら、来ないほうがよかったかなって。」



悔しそうに話す春花に、ラビが何か言ってやろうと口を開いたところで、


「だったらお前、エクソシストなんてやめろ。」


別の声が、白だけの病室に響いた。

ゆっくりとした動作で声がしたほうを見遣る。
そこにいたのは神田で。



「……だが、悔しいと思うなら、次は成功させればいいんじゃねぇの。
―――成功させるために、次までに強くなりゃいいだけの話だろ。」


「――…そう…だね。
ありがとう、神田。」




ふわりと笑う春花に、ラビは、何かを感じた。


(―――なんか、いつもと違う―…?

―………そっか。
今、春花が、ちゃんと笑ったからだ―)



ついラビは、声に出してしまっていた。


「やっと、ちゃんと笑ったさ。
やっぱし、こっちのがかわいい。」


ふにゃりと笑ったラビの顔を見て、力が抜けた。


自然と笑いが込み上げてくる。



―――気付けば。


「――…ふっ、あはははっ!!
ラビ、今の顔っ……!!
あははははっ!!」


久しぶりに思い切り笑っていた。


ラビが嬉しそうに隣で微笑んで。

それが嬉しくて、また笑った。




+++

ひとしきり笑って、一息つく。


すっかり笑い疲れて、まぶたを閉じた。


寝てしまったと思ったのか、ラビの、男の人特有の骨張った、でもどこか柔らかい雰囲気を持つ手が髪を撫でる。

その手が離れるのがイヤで、寝たフリを続けているうちに、また眠ってしまっていた。



だから、ラビ達が病室からいなくなったことに、気がつかなかった。









(一人ぼっちは)

(もう慣れてたハズなのに)

(目が覚めた時、)

(あなたが隣にいなくて)

(怖かったんだ)
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ