恋ノ唄
□29
1ページ/2ページ
「……ねぇ、アレン……」
「なんですか?」
街を歩きながら、ふと春花が声を漏らした。
森を抜けてからすでに数十分が経っている。
さすがに疲れたのだろうか、春花はその場で足を止めてしまった。
「ごめん、勝手で悪いんだけど、あたしちょっと行きたいところあるの。先に行ってて」
疲れているワケではなかったらしい。
最後にもう一度謝って、春花は踵を返し、もと来た道を戻っていってしまった。
「どうしたんでしょうね」
「チッ、俺が知るかよ」
春花の行動に首を傾げつつ、不機嫌なオーラを放つ神田の後ろをゆっくりとついて行った。
てゆーか僕は何も悪いことしてないのになんで舌打ちされたんでしょう。
+++
「……ここまでくればいいかな」
辺りを見回し、人がいないことを確認する。
―と言っても。春花ともう二人。
確実に人はいるのだが。
「さっきから何?さっさと出てきなさいよ」
―トン、
木に寄りかかり、相手が出てくるのを待つ。
さて、どこから出てくるかな。
「ちぇーっ、バレてたのかよ」
「ヒッ!やっぱ春花にはすぐバレるね!」
出てきたのは。
黒いメイクをして、黒髪を無造作に伸ばした少年。
その隣に並ぶのは金髪を長く垂らし、同じような黒いメイクを施した、一見女にも見えそうな少年。
―記憶が、蘇る。
幼い頃の、記憶。
「……デビット…ジャス、デロ……?
なんで二人がここにいるの…?」
口をついて出た言葉に、自分が一番驚いた。
思い出せないのに。
だけど、そんな思いとは裏腹に感覚だけが蘇ってくる。
「お前、ホントにエクソシストになったんだな。
…社長が言った通りだったぜ」
デビットが、ほんの少しだけ悔しそうに顔を歪めた。
ちくり、胸が痛んだ気がして。
「ヒッ!残念だったね!!」
ジャスデロのそんな言葉に、なにがだよ、とふてくされたように返す彼が、懐かしい。
「なんで今頃出てくるのよ…っ…!!
あたし、エクソシストになっちゃったじゃん……っ…」
もう、遅い。
そんな思いが、頭の中を過ぎった。
「いいよ別に。それだったら殺すだけだし」
「ヒッ!デビット本気!?」
面倒そうに。けだるげに。
当たり前だとでも言うように言われた言葉。
一瞬耳を疑った。
デビットが、そんなことを言うなんて。
「……なん、で……?」
春花の中に、ぼんやりと存在するデビットはそんなことを言ったりしないのに。
「はぁ?だって春花はエクソシストだろ?」
「ヒッ!でも春花は春花だよ!」
知るかそんなこと。
そう言って、デビットがいきなり走って来た。
本能的に何か感じ、腰を落としてデビットが攻撃を仕掛けてくるのを待つ。
-ダンッ
地面を蹴り。
高く跳ねたかと思ったら、顔目掛けて脚を大きく振って。
それをギリギリで躱し、屈んだ反動で春花も脚を振り上げた。
「―っと……」
たん、
軽やかにそれを避けたデビットの腕が、頬を掠った。
「――っ………」
静かに血が頬を流れる。
―ダメだ。
あたしじゃ勝てない。
イノセンスを発動しようとして、やめた。
体術ですら勝てないのに、イノセンスを発動したって勝てるワケがない。
―そんなことを考えている間にも、デビットからは攻撃の雨が降り注いでいて。
春花は避けるので精一杯だった。
(…でも、避けられるってことは、スピードにはついていけてるってことだ)
.