恋ノ唄

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「……ねぇ、アレン……」


「なんですか?」



街を歩きながら、ふと春花が声を漏らした。


森を抜けてからすでに数十分が経っている。

さすがに疲れたのだろうか、春花はその場で足を止めてしまった。



「ごめん、勝手で悪いんだけど、あたしちょっと行きたいところあるの。先に行ってて」


疲れているワケではなかったらしい。

最後にもう一度謝って、春花は踵を返し、もと来た道を戻っていってしまった。


「どうしたんでしょうね」



「チッ、俺が知るかよ」


春花の行動に首を傾げつつ、不機嫌なオーラを放つ神田の後ろをゆっくりとついて行った。



てゆーか僕は何も悪いことしてないのになんで舌打ちされたんでしょう。







+++


「……ここまでくればいいかな」



辺りを見回し、人がいないことを確認する。


―と言っても。春花ともう二人。
確実に人はいるのだが。



「さっきから何?さっさと出てきなさいよ」


―トン、

木に寄りかかり、相手が出てくるのを待つ。
さて、どこから出てくるかな。


「ちぇーっ、バレてたのかよ」


「ヒッ!やっぱ春花にはすぐバレるね!」




出てきたのは。


黒いメイクをして、黒髪を無造作に伸ばした少年。



その隣に並ぶのは金髪を長く垂らし、同じような黒いメイクを施した、一見女にも見えそうな少年。


―記憶が、蘇る。

幼い頃の、記憶。



「……デビット…ジャス、デロ……?
なんで二人がここにいるの…?」



口をついて出た言葉に、自分が一番驚いた。


思い出せないのに。
だけど、そんな思いとは裏腹に感覚だけが蘇ってくる。



「お前、ホントにエクソシストになったんだな。


…社長が言った通りだったぜ」

デビットが、ほんの少しだけ悔しそうに顔を歪めた。

ちくり、胸が痛んだ気がして。


「ヒッ!残念だったね!!」


ジャスデロのそんな言葉に、なにがだよ、とふてくされたように返す彼が、懐かしい。



「なんで今頃出てくるのよ…っ…!!

あたし、エクソシストになっちゃったじゃん……っ…」

もう、遅い。
そんな思いが、頭の中を過ぎった。


「いいよ別に。それだったら殺すだけだし」


「ヒッ!デビット本気!?」


面倒そうに。けだるげに。

当たり前だとでも言うように言われた言葉。

一瞬耳を疑った。



デビットが、そんなことを言うなんて。


「……なん、で……?」


春花の中に、ぼんやりと存在するデビットはそんなことを言ったりしないのに。

「はぁ?だって春花はエクソシストだろ?」


「ヒッ!でも春花は春花だよ!」



知るかそんなこと。

そう言って、デビットがいきなり走って来た。


本能的に何か感じ、腰を落としてデビットが攻撃を仕掛けてくるのを待つ。



-ダンッ


地面を蹴り。
高く跳ねたかと思ったら、顔目掛けて脚を大きく振って。



それをギリギリで躱し、屈んだ反動で春花も脚を振り上げた。


「―っと……」


たん、
軽やかにそれを避けたデビットの腕が、頬を掠った。



「――っ………」


静かに血が頬を流れる。
―ダメだ。
あたしじゃ勝てない。

イノセンスを発動しようとして、やめた。

体術ですら勝てないのに、イノセンスを発動したって勝てるワケがない。



―そんなことを考えている間にも、デビットからは攻撃の雨が降り注いでいて。


春花は避けるので精一杯だった。



(…でも、避けられるってことは、スピードにはついていけてるってことだ)












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