恋ノ唄

□30
1ページ/1ページ



―――あの日から一週間が経った。

あれから春花はどことなく元気がない。


「春花、どうかしたんですか?」



「あぁ、アレン……ううん、ちょっと考え事」


「……あれから、元気ないですね」


「そう?いつも通りだと思うけど……」



神田に突っ掛かったりしないし、昨日は柱に頭ぶつけてたし。

今日だって朝からなにもないところで転んでいた。
普段の春花じゃありえないことだ。


「……彼らとはどんな関係なんですか?」


「―――――昔の、知り合いよ。
ずっと昔の、ね」


「……知り合いで済ませられるような関係には見えませんでしたけど」


「………アレンには関係のないことよ」



――関係ない、なんて言われてしまえば、僕には返す言葉はない。

でも、あんな春花を見て放っとけるワケがないから。


「……アレン…?なんで、泣くの……?」


「え……あれ………?」


「…泣かないでよ。あたし、人が泣いてる顔見るの嫌いなの」



悲しそうに笑いながら、春花は服の袖で涙を拭ってくれる。

…これじゃあ僕が年下みたいだ。
―事実、春花の方が大人びているけど。


「…すみ、ません……」


「……アレンの涙は綺麗ね」


「…………?」


「アレンは他人のために涙を流せるでしょう?
誇れることだと思うわ」



――やっぱり、春花は優しい人なんだろう。

優しいから、傷ついて、だから人を信じれなくて。


本当は信じたいのに周りは敵だらけのように思えるんだ。



「…春花、僕らは君を置いていったりしませんから。
だから、信じて、ください」


「―――…ありがとう、アレン」



ふわりと笑った春花の顔は、さっきまでの泣きそうな、でも無理矢理笑おうとしているような顔じゃなかった。

よかった、僕でもなにか力になれたのだろうか。


「……でも、やっぱりこれはあたし自身が解決しなきやならない問題だから」


やんわりと拒絶するようなそのセリフに、ツキ、と痛んだ胸。
やっぱり、ラビじゃなきゃダメ、かな。


「……ねぇアレン、」
「なんですか?」


「アレンはもしも――自分の大切な人が、倒さなきゃならない相手になってしまったら、どうする?

――もしかしたら、殺すことになるかもしれない、そんな相手になったら、アレンはどうする?」


―――殺さなければならない人―

実際、自分は大切な人を殺した。
否、壊した。

春花は、どんな言葉を望んでいるんだろうか。


僕は、本意ではなかったから。

でも、あの時。
確かに僕の身体はアクマになったマナに反応したんだ。

だけど、マナを壊したくなかったし、僕がエクソシストじゃなければ壊せなかった。


「――僕だったら、殺せません。
例え弱いと言われても、大切な人を手にかけるなんてできません」


「そっか……ありがと、」


よし、となにか心に決めたような表情で、春花は前を見た。

―迷いは、なくなったみたいだ。



歩き出した春花の後ろ姿は、凛としていた。











(このとき)

(彼女の脆さに)

(気付いていれば、)
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ