恋ノ唄
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「よく来たなァ」
「…自分から誘っておいてそれはないんじゃない?」
「ヒッ!また会えて嬉しいよ!」
ありがとう。
春花は皮肉をこめてそう言った。
尤も、目の前に立つ彼らにはわからないのだろうが。
「…お前も、バカになったなぁ?
昔のお前だったらハナから罠と分かっていてわざわざ誘いに乗るようなヘマはしなかったぜ」
「その罠にかかってあげたのよ。
行こうか行くまいか――悩んだけどね。
このままじゃあたしがスッキリしないから来たの。
全く、本当なら今頃教団に向かってるところだったのに」
ニヤリと笑った春花。
纏う雰囲気が変わった春花に、デビットとジャスデロは背筋に悪寒が走ったのを感じた。
「…ハッ、そりゃあ悪かったなぁ。
ま、来ようが来なかろうがいずれ春花は殺すつもりだったんだからよ」
「へぇ、あの頃、あなたたちが一度でもあたしに勝ったことあったかしら?」
「あれから何年経ったと思ってんだよ。今更テメェに負ける訳ねぇだろ」
スッと細められた春花の瞳は、ほんの少しだけ紅く染まっていた。
無駄のない動作で引き抜かれた漆黒の刀の刀身はすでに紅く染まっており、その切っ先は確かに二人を捉えている。
微かな笑みを浮かべたまま、タタン、と数歩でデビットとジャスデロの目の前まで来ると刀を横に凪いだ。
僅かに切れたジャスデロの髪が一房、宙を舞った。
「ヒッ!デロの髪が!」
「うっせー。んなモンあとでいくらでも買ってやらぁ」
それよりも、だ。
デビットは呟いて春花を睨みつけた。
「なんでお前がそんな刀を使いこなしてんだよ。お前昔から剣術はからきしだっただろ」
「いつまでも昔のままじゃないのよ。今のあたしは、周囲を取り巻く物を武器として使えるわ」
ニヤリと笑って再び刀を構える春花にデビットは舌打ちをし、銃を取り出した。
弾はいれてあり、あとは引き金を引くだけだ。
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