恋ノ唄

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「――…」

名前を呼んではみたものの、こんな状態(腹に穴あいてます)では声なんて出るはずもない。

第一、こんな寂れたような街にある森から、遠く離れた黒の教団までどんなに叫んだところで声が届くはずもないのだが。
かすれた声はほんの少し鼓膜をかすっただけで、声というよりもうめき声に近かった。


それでも、多分今頃は気持ちよく寝てるであろう彼の名を、心の中で何度も呼び続けた。
とは言え、自分の命を繋ぎとめるにはまず人を探さなければならないわけで、だけど神田とアレンはジャスデロとデビットを追いかけたので、今、春花は一人きりということになる。
――考えてみれば、今の春花はものすごく危険な状態にあるのではないだろうか。


「―…げほっ、げほっ…!」

もう何回、血の塊を吐いたのか。辺りには血の混じった何かが広がっていた。

もう一度、彼の名を呼ぶ。と言ってももう声を出すことすらできなくて、ひたすら心の中で。










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