恋ノ唄
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―ゆっくりと倒れていく体躯。
デビット達がこの場から去っていく音と、アレン達が駆け寄ってくる音が同時に聞こえる。
「―…っは、」
息ができない。
血が止まらない。
内臓がえぐられたような感覚に、吐き気を覚えた。
「春花っ、大丈夫ですか!?」
「…俺はアイツらを追う」
「っ、アレンも行って…」
「でもっ…」
神田が走って行った方向と春花を交互に見ながらうろたえるアレン。
そんな彼を睨み、声を荒げた。
「早く…行けってば!あっちは二人なんだッ!神田一人でどうにかなると思ってるのか!」
「―…ッでもそんな傷を負ったキミを置いていけない!」
「これはあたしの不注意だっ…ゴホッゴホッ!
その責任を神田に押し付けるワケにはいかない…!アレン、お願い…行って…―」
最後のほうは、ただ懇願するようになっていた。それほどに彼らは強い。
そもそも飛び道具を使うアイツらに対して、神田の接近戦に特化した六幻は相性が悪すぎる。
小さく舌打ちをして、アレンに銃と弾を渡した。
もちろんイノセンスではない。しかし弾は対アクマ用に造られた弾だ。ノアの彼らに使ったとしても、致命傷なんかにはならないだろう。
それでも多少のダメージを負わせることくらいはできるハズだ。
「アレン、それ使って…対アクマ用の弾、あるから…」
「春花…必ず戻ってきますから…!」
「ん…」
アレンが走り出したのを見て、それに安堵したせいか急に意識が薄れてきた。
「(死ぬ…のかなぁ…それも、いいかもね…。母さんのところに行けるなら―…)」
目を閉じたその時に、頭に浮かんだのは赤毛の彼。
楽しそうに笑ったり、悲しげに笑ったりしているラビの顔が浮かんだのだった。
「なんだ…笑ってる顔しか浮かんでこない…」
乾いた笑いをたてて、開けかけた瞳を再び閉じる。
死ぬつもりじゃない。ただ、もう疲れてしまったのだ。
血は止まってきたが、先程までの戦闘のせいか、疲労がピークに達していた。だから、少し休むだけのつもりで、意識を手放した。
(もしもまた)
(キミと会うことができたなら、)