恋ノ唄
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―雲が、流れる。
風が速いなぁ、なんて場違いなことを考えながら傷口に手をやった。
ぬるりとした赤黒いものが手に張り付いて、すぐに固まった。というかすでに固まりかけたものだったのだろう。
あれから、どれだけの時間が経ったのか、太陽がもう高いところまで昇っていた。
「…デビット、思いきり指してくれたなー…。でも、キレイに刺して、る…」
幸い、血はあまり出ていない。
血が出たのはデビットに刺されて、それが抜かれた直後だけだった。
不思議と痛みはなかった。もしかしたら、既に感覚が麻痺してきているのだろうか。
―ドー…ン…
遠くで音が聞こえる。多分、二人が戦っているんだ。
………今回も、足手まといになってしまった。前回の任務から少しも成長していない自分に嫌気がさして、伏せた瞳から涙がこぼれ落ちた。
「…っく、ふ…っ……」
とめどなく溢れる涙は、血溜まりに混ざって血をほんの少し薄めるだけで、何の意味も成し得ない。
「ら、び…っ……早く、来て…」
お願いだから、と呟いた声は小さく、今にも消えてしまいそうで。閉じようとした瞳からは、また涙が一筋伝う。
―ザッザッザッ…
「――…」
足音だ。アレンか、神田だろうか。それともデビット達か――