君に捧ぐ純情(短編)
□無自覚天使
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いつもドキドキして
待っているだけでは
たぶんいけない
オレだって色々と
努力しなければ!!
土曜日
今日は大学も休みで1日オフだ。
明日の日曜日は久々に野分も休みなので、一緒に出掛ける約束をした。
だが…
何処に行くかとか、何をしたいとか…基本的に野分は別に言わない。
なので必然的にオレの行きたいところになるのだ。
一緒に出掛ける限り全然退屈そうにはしていないし、それで別に問題はないのだが。
でも毎回だと、オレ自身にプレッシャーがかかってしまう。
どうせなら楽しめるところが良いわけだし、でもデートも何度かしたけれど行った場所は似通っている気がする。
(たまには、下調べでもするか)
せっかくの休みなので1人で家に居ても仕方ないし、時間があるので明日の出掛ける先を検討しようと家を出た。
****
昼間の喫茶店は少し混んでいた。
横を駆け抜けるウェイターやウェイトレスたちは忙しそうにしていて、さっきも隣の席で食器の割れる音がした。
(ここは騒がしいな。)
いつもは行き付けの喫茶店に行くのだが、気分を変えて今回は一駅先の所に入ってみた。
しかし
ここは駅近なので人通りが多いし、客が多いからかさっきから店内は騒がしい。
(…ここはやめよう)
そう心に決めて、次の場所を考えながら注文したコーヒーを口に運ぶ。
何度か口にしたコーヒーは味的に問題はないのに、店の雰囲気がどうしても自分に合わない。
隅の席ならもう少し静かなのだろうけど、必ずしも端の席になれるとは限らないし…何よりも
(あの野分の事だ…絶対に何か目立つ事をするに違いない!)
普通にしていてもデカイから目立つくせに、こういう所に来るとケーキセットを頼んで人の口に平気で運んできたりする。
「………。」
その光景を思い出して1人で赤面した。
(いい年して何が「あ〜ん」だ!)
思わず手にしていたカップを割れそうな程握り締めていた。
人通りが多い店に入るなら、何としても端の席を死守しなければっ!!
怒りに任せて乱暴に手の中のカップをソーサーに戻すと、カチャン!と音が響いた。
憤慨しながら持参していた本に視線を落とすと、しばらくして視界の端に影が落ちた。
「……?」
何だろうかと顔を上げればそこに居たのは若い高校生らしきウェイターの男の子で、こちらを見て目が合った途端に何故か赤面した。
何か用かと口を開こうと思った瞬間に切り出したのは向こうだった。
「あの…!よろしければ、コレどうぞっ!」
それだけ言って、彼はテーブルを後にした。
彼が走り去って行った厨房の奥からは何人かの男子のざわめきが聞こえた。
同時に何かが割れる音も…
(…何なんだ…?)
訳も判らずテーブルを見れば、差し出されたモノは美味しそうなチーズタルトだった。
どうしてこんなモノが運ばれてくるのか検討も付かないオレは、手元の伝票を見返すがそこにケーキの記載はない。
注文していないのに運ばれて来たケーキ。
(試作の無料キャンペーンでもしてるんだろうか…?)
そう結論を出して、タダならせっかくなので頂く事にした。
「…美味しい…。」
一口頬張って、あまりの美味しさにニコニコしながら食べていると厨房から視線が刺さった。
同時にまた何か話し声が聞こえてくる。
試作品の反応を見ているのだろうと思い、あえて視線を気にせずに完食して店を後にした。
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